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「まあ、光は一途に…奥さん大事にしてくださいな…! ーーーじゃっ!そろそろ待ち合わせ場所着くから!」 「ありがと…またな…!」 恭平に別れを告げて、俺は通話の終了ボタンを押した。 恭平の電話の向こうはガヤガヤとたくさんの人の声が混ざり、ガサガサとしていた。 その雑音の中にーーー真木もいるのだろうか。 『女関係に置いては、アイツあんま良い噂無くね?』 恭平の言葉を引きづりながら、俺は一階へと降りてリビングに戻った。 テーブルには鮭フライとタルタルソース、グリーンサラダと、キノコを使ったマリネらしきおかずが乗っている。 「終わった?」 エプロンを外しながら愛に聞かれ、俺は「ああ」と短く返事をした。 「大学の同級生から」 「そっか。なんて?」 「飲み会来ないかーって。 急だったし、断った」 俺が言うと愛は驚いた様に目を丸くし「良かったのに」と呟いた。 その後で「でも、ありがと」と言葉が返ってきて、愛は俺を後ろから抱きしめる。 俺は愛のぬくもりを背中に感じながら、夕飯の時にでもーーーさりげなくお腹の子の父親について、愛に尋ねてしまおうかなんて考えている。 愛は俺が真木と同じ大学の出身だと告げても顔色ひとつ変えはしなかった。 「光さん」 突然名前を呼ばれて、自分の考えが見透かされたのかと思った俺は「うん?」といつもより慎重に振り返る。 「……買ってきてくれたんだ、コレ」 愛はそう言って、自分の体の後ろに隠していた指輪の入った紙袋を胸の前に出した。 俺は指輪を買っていた事を思い出し、思わずハッとした顔をしてしまう。 真木と遭遇して、恭平から電話もらってーーー正直指輪の事なんて全然頭になかった。 俺の顔を見て、愛は笑う。 「ダメだよ!渡すまでが大事なのに!」 愛はそう言いながらも、指輪の入った紙袋を幸せそうに見つめている。この指輪は印になるのか。愛が、俺と結婚しているという、印に。 「ねぇ、光さん着けて?」 「え?」 突然言われ、俺は顔を上げた。 「鮭フライ冷めちゃうよ」とかわそうとしたが、今はそれを言う勇気が出なかった。 「光さんに、私の指にはめてもらいたいの。 そしたら私一生、この指輪を外さないから」 愛から指輪の入った紙袋を手渡され、俺は仕方なく慣れない手つきで紙袋を開けて、指輪の入ったケースを取り出した。 蓋を開けるとシンプルなプラチナの指輪が、2つ並んでいる。 「綺麗…」 うっとりとした愛の表情に、思わず見惚れる。 指輪を買って、心から良かったと思うのに、指輪を愛の指にはめることには少なからず抵抗を感じる。 「早く着けて」と愛に急かされ、俺は愛の細い指輪を手に取った。 愛の指は珍しい程に細く、俺が今彼女の指にはめようとしてる指輪は、自分の小指にすらはまらない。 心臓がドキドキと音を立てていた。 同時に静かに押し寄せる不安。 いいんだろうか。 本当に俺が愛にーーーこれをはめてしまっても。
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