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来島 愛
ベットに横たわり彼女と揃いで買ったネックレスを外して、枕元の棚の上に置く。
『I &S』の愛と俺のイニシャルが入ったネックレス。
コレを見る度に思い出して、考える。
彼女は今、どこで何を、してるんだろうと。
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「おはよう柊一」
「おはよ」
すれ違った達弥は俺に挨拶して右手を上げた。
ラグビーサークルに所属している達弥の肌は日に焼け、筋肉質な身体は厚手のニットを着てもわかるくらいガッシリとしている。
俺は冬の晴れ間は貴重だなと、空を見上げた。
今日は大学が少し早く終わるから、久々に愛に会いに行こうと思った。
物心ついた時から、自分の周りにはたくさんの本があり、分からない事はなんでも調べなさいと言われて育った。
「朝、柊一の父ちゃん見たぞ」
俺の両親は2人とも有名な研究者で、父親が朝のニュース番組のコメンテーターをしていた小学生の頃は、学校に行けばいつもそう声をかけられ嬉しかった。
父も母も忙しい人だったが、夏休みは父と母に少しだけ協力してもらい、自分でテーマを作って大規模な自由研究をした。
動物や魚の生態についてや、昔からある道具の事、その他気になった事を自分でテーマにして、調べてみる。
忙しい両親の代わりに、その自由研究の都度、祖父がまだ小さい俺を、博物館や水族館などの専門の施設に連れて行ってくれた。
だから言うなれば子供の頃から、俺は「勉強できる環境が整っている」子どもだった。
そして子供の頃から勉強や自由研究の楽しさを知った俺は、大きくなったら自分も研究者になるものだと疑わなかった。
研究したいと思う内容は中学生までころころ変わり定まらなかったが、それも成長と共に自然に決まった。
きっかけは、祖父に癌が見つかった事だった。
この時俺は大きなショックを受けた。
両親は常に忙しく、俺は小さい頃は特に、祖父母に育てられたようなものだった。
いつも一緒にいて、祖父の車で好きなところへ出かけ、祖母のご飯を食べて大きくなった。
だから俺は物心ついた時にはもうすっかり、俗に言う「おじいちゃんっ子」「おばあちゃんっ子」になっていた。
祖父の癌は幸い大きなものではなく、手術と薬で寛解すると医師から説明を受けた。
それならよかったと安心した俺だったが、手術を終え、抗がん剤治療を行っている祖父のお見舞いに行き衝撃を受けた。
祖父は抗がん剤治療による副作用に苦しみ、元気だった祖父とは別人の様になっていたのだ。
健康的な印象だった祖父は痩せ、顔色も悪く、祖父の年齢では珍しく豊かだった髪の毛も無くなっていた。
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