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莉子の亡骸は警察が検死を行なった後、やっと自宅に戻ってきた。 莉子の身体には痣一つ無く、自殺で間違いなというのが、警察の見解だった。 莉子の亡骸は両親が遺した一軒家の、東側にある小さな和室に横たえられた。 仏壇に飾られた両親の写真の中に、莉子の写真も加わるのかと思うと、俺は先ほどよりも激しく自分が天涯孤独となった事を思い知った。 「莉子…」 莉子の名前を呼んで、俺は莉子の髪を撫でた。 子供の頃ーーー何度か頼まれて結ってやった事もある、莉子の髪。 莉子は三つ編みや編み込みなどの手の込んだヘアスタイルが好きで、小さい頃よく「編んで」と言っては俺の前にちょこんと座った。お気に入りのヘアゴムを持ってきて「今日はコレとコレで結んで」とオーダーするのだ。 俺はあの頃と同じ様に、莉子の髪の端っこを三つ編みにしようとした。でも指は、思っている様に動かない。自分が、三つ編みの仕方を忘れてしまっているのだ。 三つ編みの仕方を忘れるほど長く一緒にいたのだと一層悲しい気持ちになり、俺は莉子の髪を離し、そっと元の状態に戻した。 水の中で死んでも、莉子の生まれ持った直毛はいつものヘアスタイルの形を保ち、美しい。 俺はその夜10数年ぶりに莉子と、布団を並べて横になった。 月が出ない、真っ暗な夜に、俺は目を閉じても眠ることができず、身体を起こしては何度も莉子の顔を見つめていた。 ずっと一緒にいられると思っていた。 ずっと朝が来て、莉子は学校に行って、俺は仕事に行ってーーーー帰ってきて夕飯を食べて、それぞれ風呂に入って眠る。 そんな当たり前の生活が、ずっと続くと思って疑いもしなかった。 ましてこんなふうに、莉子や自分の結婚やーーー転勤などの仕事の都合でもなくーーー莉子の死によって昨日までの当たり前の生活が途絶えるなんて、そんなの夢にも思っていなかった。
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