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「ーーー…明るい…ストーカーさん……」 彼女はそう言うと、口元に手を当てて小さく笑った。 明るいストーカー……。 「……ごめんなさい……。 …会社の先輩が…お兄さんの事気付いてて… 『明るいストーカー』って言ってたから…」 彼女はそう弁解すると、もう一度笑った。 いつも結んでいる鎖骨まである髪を、今日はおろしている。 「ーー見られてたんだ…あの時…」 「あれは…見られてない方が不自然じゃないかな…?」 彼女に言われ、俺は急に照れ臭くなる。 誰もいないと、見られてないと、本気で思ってたのに。 「名前は?」 「(いと)。愛ってかいて(いと)」 「…そっか…(いと)…良い名前だね」 「ありがと。…貴方は?」 「真木柊一(まき しゅういち)(ひいらぎ)に数字の(いち)で、柊一(しゅういち)」 愛は俺の名前の漢字を想像しているのか、視線を上にやり「しゅういち…」と小さく呟く。 「柊一さん……あ…冬生まれ?」 聞かれて頷くと「やっぱり」と笑った。 「良い名前だね」 愛は俺と同じ様に言って、微笑んだ。 「あんま言われた事無いかも…」 「そう?私は素敵だと思うけど」 「…なんで?」 「逆境に強そうで」 予期せぬ答えに、驚く。 「(ひいらぎ)って冬の寒い時期に花を咲かせるのよ。普通なら花のならない寒い時期に花を咲かせるって、素敵じゃない? それに……(ひいらぎ)って若い時ほどトゲがギザギザしてるの。で、歳をとってくるとトゲが段々減っていくんだって…。 そういう所が、人間みたいでいいなって思う」 愛はそこまで言って「まぁ、毒もあるんだけど」といたずらっ子の様に笑った。 なんとなく彼女の名前を褒めた俺とは違い、愛はちゃんと自分の名前の良い理由を説明してくれた。 「物知りなんだね…いくつ?」 「17」 答えられた俺は、電車の中で飲もうとしたミネラルウォーターを吹き出しそうになって、むせてしまった。 愛は童顔だが、未成年だとは思っていなかった。 「ーーーごめん…ッ…未成年だと思わなくて…」 息を整えながら言う俺を心配そうに覗き込む。 呼吸が整うまで、愛は時々人目を気にしてキョロキョロしながら、俺に大丈夫?と声をかけてくれた。 「高校行ってないから、よく間違われて。 …お兄さんはいくつ? …私よりは、ちゃんと年上に見えるけど」 ちゃんと、という言い方に、愛のいたずら心が感じられた。 「22だよ…今、大学4年生」 「じゃあそろそろ働くの?」 「ううん。大学院に進学する。 そっから5年…また勉強するんだ」 俺の言葉に、愛は目をまんまるにした。 高校に行ってないと言った愛の言葉を思い出す。 「ーーーすごいねーー… 7才から計算したら…20年以上も勉強してるんでしょ…? ちょっと考えられない……私勉強… ……あんまり好きじゃなかったから」 7才から………。 それはちょっと、オーバーじゃ無いかなと思って、俺は笑ってしまう。
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