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「……愛ちゃんもすごいよ。
…まだ、若いのにちゃんと社会に出て、働いてて」
俺が言うと「ちゃん…!」と愛が呟く。
ちゃん呼びされたのが、意外だったのかもしれない。
「私は家が貧乏だから、必要に迫られて…!
でも、勉強より仕事の方好きだから、いいんだけど」
愛がそう言ってすぐ、電車は愛の目的地に到着した。
愛はこれから、1人で映画を見にいくのだと言う。
映画は俺も子供の頃よく見ていたアニメで、愛 は「お兄さんと同じ名前の、私の好きなキャラクターが出てくるの」と笑った。
どうやら今回の映画は俺と同じ名前の、その狙撃手がメインの話らしい。
「映画はいつも1人で見にいくの。
友達といると、集中できなくて」
愛がそう言うので、俺は映画を見終わってから、一緒に食事をしないかと誘った。
まだ少し警戒している愛に「絶対に何もしない。食事を一緒に食べるだけ」と誓って、やっと首を縦に振ってもらった。
その日は愛が映画を見終わってから、約束通り2人で昼食を取りに行き、その後愛が行きたいと行った博物館に行った。
そして最後に俺がオススメしたフルーツタルトを食べて健全なデートを楽しんだ。
真っ赤な苺を軸に、色とりどりのフルーツが敷き詰められたタルトを見た愛は「宝石みたい」と目を輝かせた。
俺はこの1日で、ますます彼女の魅力に夢中になった。
家が貧しく、中学を卒業してすぐに働いた愛は、その顔立ちと華奢な身体に似合わず、精神年齢がずっと上に見える時があった。
俺は時々可愛いらしい彼女の方が、彼女の建前の姿で、時々見せる大人びたーーー少し寂しそうな彼女こそ、愛の本当の姿な気がしていた。
俺は愛と何度かデートを重ね、大学を卒業して大学院に行く前に正式に付き合った。
付き合った時に買ったのが、この揃いのネックレスだった。
この時から4年。
たった4年で、愛が自分の前から消えてしまうなんて、俺は予想もしていなかった。
ーーーーーーーー
「愛!!!」
大学院が終わった俺は、パチンコに行こうと誘ってくる達弥を退け、愛の暮らすアパートに彼女を迎えに行った。
「柊一!待ってた!」
愛は嬉しそうに玄関のドアを開け顔を出す。
つい1ヶ月程前まで、愛は俺の住むアパートに転がり込み、ほとんど一緒に暮らしていた。
しかし一緒に暮らしてるのを俺の両親に見つかり、愛は一旦自分の借りているこのアパートに戻ってきたのだった。
なんの連絡もなしに俺の元にやってきた両親は、当然だが愛を見つけて良い顔はしなかった。
勉強が大事なこの時期に彼女と同棲してるなんて言ったら、両親から雷が落とされる事は容易に予測でき、俺は愛と付き合っている事をこの3年間ずっと黙っていた。
だから愛を見つけた俺の両親の驚きは、尋常じゃなかったと思う。
両親は最初こそ「可愛い子じゃないか」と愛を見てニコニコしていたが、腹の底ではそんな事を思っていない事はすぐに分かった。
愛も俺の両親の本心に気付いたのか、両親の前では借りてきた猫の様に大人しくなり、丸くなっていた。
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