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「何考えてるんだ。 この大事な時に、女にうつつを抜かして」 愛が帰ってから、父親はそう言った。 「ちゃんと勉強もしてるよ」 俺はそう口答えした。 「女なんていても、碌な事にならない。 勉強の邪魔になるだけだ」 父は俺が何を言ってもそう言って聞かず、その日は散々俺と愛の交際に反対したまま家に帰っていった。 無論、母親の主張も同じだった。 愛が中卒だと知った母親は「わざわざそんな子選ばなくたって…もっと良い人がいるでしょ?」と声をかけてくる。 うるさいな。 俺には愛じゃなきゃダメなんだよ。 俺は心の中で、そう反論した。 「ねぇ、柊一」 インプレッサの助手席に乗った愛はなんだか不安そうに俺の名前を呼んだ。 両親から言われた事を思い返していた俺は我に返り「どした?」と愛に聞き返した。 「……待ってね……あのね……」 「???」 愛はそう言って、何か言おうとしていた。 愛は自分を落ち着けるように、大きく息を吸い込み、一瞬息を止めてからふぅーーと大きく、息を吐いた。そして、小さく咳払いをした。 「……生理……来てないんだ……」 「ーーーーーー」 一瞬、聞き間違いかと思った。 でも俺には、愛にそう言われる心当たりがあった。 「ーーーえ…ーー本当にーーー?」 「本当よ…! …嘘でこんな事…言うわけないじゃない…」 愛に言われ、それもそうだよなと考え直す。 心臓の音が大きくなっていき、目の前がクラクラしてくる。 「ーーーやっぱり…喜んではくれないよね…」 俺は「そんな事ないよ」と口にしたものの、愛はその言葉をすぐに否定した。    「嘘ーーー… ーー…やめてくれよって顏にかいてある」 「……遅れてる…だけなんじゃないの?」 俺が言うと愛は首を横に大きく振った。 「昨日妊娠検査薬を使って調べたの… …そしたら陽性だった」 はっきりと否定され、俺は子供が出来るような行為をしたのは自分のくせに、ひしひしと追い詰められるような感覚に陥る。 大学院はどうする? 結婚するならお金は? 子供を産むなら、結婚するなら。 育てるのにも生活するにもお金がかかる。 両親にはなんて言う? 今までお前に期待して大学院まで行かせたのにと、両親は激怒するに違いない。 「柊一」 愛が俺の名前を呼び、目がカチリと合った。 「やめてくれ」 と、俺は答えを聞く前から思ってしまう。 愛のこの先の言葉は予想がついている。 この言葉を言われるのが、どうしようもなく怖い。 「私産みたいの…産んじゃ…ダメかな…?」 その言葉を聞いて、俺は声に出すより先に、首を小さく横に振っていた。 「……ごめん…堕ろして欲しい……」 自分の声は震えていた。 自分の口にした言葉が恐ろしく、俺は小さく咳払いをした。
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