1

5/15

412人が本棚に入れています
本棚に追加
/117ページ
「ーーーーーーッ!?」 驚いた。それと同時に、見なければ良かったという気持ちになった。鞄の横にある小さなポケットに、男性用の避妊具が入っていたからだった。 莉子に恋人はいない。 でも、莉子が片思いをしていた男には心当たりがあった。 俺が大学の頃から一緒の学部だった真木柊一(まき しゅういち) 真木の家は昔から裕福でありながら父親も母親も研究者で、生まれた時から難しい本や図鑑、資料に囲まれた生活が当たり前だったと言っていた。 背が高く、色が白い真木は、ぱっと見今流行りのKPOPアイドルの様な外見をしていた。 「塩顔イケメン」と、それだけで入学式が終わって間もない頃から女子生徒達の注目を浴び、にこやかな笑顔を振り撒いていた。 真木はそのルックスに加えて成績は大学でいつもトップクラス、スポーツは試合に出てくれないかと他のサークルから声がかかる程なんでも卒なくこなし、非の打ち所がない男だった。 真木の周りにはいつも人が集まり、真木自身も学業や研究の傍ら、そういう華やかな集まりに度々参加しており、忙しそうにしていた。 華やかな交友関係の中にいるからと言って成績を落とす訳でも無く、遊びもオシャレもバランス良く楽しめる真木。 俺はそんな真木を入学当初からよく思ってはおらず、何となく鼻に付く存在だと感じていた。 それは若干の羨ましさや妬みの様な感情でもあるのだろうけど、親のお金で大学に入り、オシャレや遊びに時間を割いても、成績は常に上位を保てる器用さが何となく苦手だった。 俺の様に真木をよく思ってない人間は一定数いたのだろうけどーーー真木はそういうタイプを避けるわけでもなく、誰とでも分け隔て無く接していた。もちろん俺にも時々声をかけてきて、ぎこちない俺とは対照的に、何気ない雑談を振ってきては微笑むのだった。 真木は俺とは違いーーーまさしくなんでもできる、正真正銘の優等生だった。 「ねぇねぇ! お兄ちゃん!真木先輩って知ってる!?」 莉子からその名前を聞いた俺は口の端についたバターを気にしながら「あぁ」と頷いた。 ちょうど2人で、朝食のトーストを食べているところだった。 「院生の修士課程に進んだろ?」 俺はトーストにバター塗ったパンをかじり、もう一枚のパンには目玉焼きを乗せて、その上に塩胡椒とマヨネーズをかけていた。 大学を卒業して一般企業に就職した自分とは違い、真木は大学院に進み研究者になるのだと言っていたから、今も大学にいるはずだ。
/117ページ

最初のコメントを投稿しよう!

412人が本棚に入れています
本棚に追加