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俺は大学三年生の時に開かれたサークル内の飲み会の帰りーーー真木がこっそりと女性と抜け出すのを見た事があった。
その飲み会の時、真木は大学で1番人気のあったーーー吉岡里穂に声をかけられていて、吉岡は完全に真木をロックオンしていた。
「この後デザート食べにいきませんか?
とっても美味しいブリュレがあってーーー」
上目遣いに提案する吉岡の手は既に真木の服の袖を掴んでおり、俺はそのテクニックに尊敬の念すら抱いてしまった。
あんな事ーーー女性からされた事もない。
流石…モテる男は違うなとなんだか気後れしてしまいそうな感覚に陥いった。
それにあの人気者の真木にああやって出来る吉岡もすごい…自分が美しいし男性から人気があるとと、ちゃんと心得ている。
俺は苦手な真木と吉岡のやりとりを見ながら、同じ学部の瀬尾とちびちび酒を飲んでいた。
吉岡の誘いを真木は笑顔で上手く交わすのを繰り返し、とうとう飲み会なお開きとなった。
居酒屋を出てからも吉岡はまだ真木を誘っていて、俺もいい加減真木も迷惑がっているのではと思っていた矢先、真木は自分の腕を掴んでいた吉岡の手を優しく外して告げた。
「明日の朝、バイトでめちゃくちゃ早くて。
だからごめんね、今日は行けない」
真木は吉岡の誘いを後味が悪くならないようにきっぱりと断ると、にこやかに吉岡に手を振って駅の裏側の通りへと歩いて行った。
吉岡は少し不満そうにしながらも、仲の良い女子達と集まって二軒目へ行き、飲み会のシメのスイーツを食べに向かった。
俺も駅の裏側を通って家に帰らねばならない為、真木と会うとやりずらいなと思い歩調を敢えてゆっくりとさせてから、真木が入った駅裏の通りへと入った。
そこで俺は、真木が女性と一緒にいるのを目にしてしまったのだ。
女性の顔こそはっきりとは見えなかったもののーーー小柄で黒い髪の女性と真木はこそこそと一緒に駅の裏道を歩いていた。
俺は慌てて足音を消す様に歩き、後退りをして真木と女性から距離を取った。
真木は女性に微笑んで何かを話し、体をピッタリとくっつけて手を繋いで歩いて行った。
真木のあんな嬉しそうな顔をーーー愛おしそうな顔をーーー俺はその時初めて見た気がした。
いつも誰にでも笑顔で分け隔てなく、悪い様に言えば八方美人にも他人行儀にも見える真木。
その真木があんな顔をするなんてーーーもしかしたらアレが…本命の彼女なんだろうかと俺はこの瞬間考えた。
吉岡にあれだけ誘われてもその誘いをあっさりと断り、あんな風に愛おしそうに女性と体をくっつけ合う真木を見てーーーこの時俺はなんだか苦手な真木を初めて人間らしいとすら思えたのだった。
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