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俺はシビックのエンジンをかけて乱暴にアクセルを踏みこみ車を走らせた。 「あんまりスピード出すと彼女出来た時嫌われるよ!」 そう莉子に言われた事を思い出し、その記憶すら引き離すように、俺はますますアクセルを強く踏み込んだ。 海沿いの直線道路を、スピードを出したいが為にひた走り、俺は気づけばこの1か月ずっと避けていた莉子が死んだ海に来ていた。 降りようか迷ったが俺は何かに引き寄せられるように車を停め、シビックのエンジンを切って砂浜に降りた。 雪は相変わらず降り続いていて、俺は何気なく掌を空に向けて雪を手に取った。 雪はほんの一瞬で形を保っていられなくなり、あっという間に水となり、乾いた俺の掌に染み込んだ。 少し歩いて波打ち際に行くと、俺の目はある一点に吸い寄せられた。 波打ち際の少し奥ーーー海の中に、白いコートを着た女性が立っている。 幻か、或いは幽霊かと、俺は何度も瞬きをし、目を擦る。 そして分かった。 彼女は、幻でも、幽霊でも無い事。 そして今この瞬間も、彼女は海の中へ進んでいっているという事。 「おいッ!!!」 何を考える訳でもなく、気づけば体が勝手に走り出していた。 海水に足を入れると、刺すような冷たさを感じたが、それでも構わなかった。 目の前のこの女性は、自ら望んで海に入ろうとーーー海に身を沈めようとしているのだと、俺は理解していた。 でもだからと言って、彼女を彼女の意のままに、死なせたくは無く、俺は彼女の細い腕を強引に掴んだ。 驚いて振り向いた彼女は小さな悲鳴を上げた。 「何してるんだ…!!…戻れ!馬鹿!!!」 膝より少し上まで海水に浸かった彼女を、俺は力任せに強引に引っ張った。 彼女は少しだけ抵抗したものの、最終的にはよろよろと俺の腕に引っ張られ、砂浜に崩れ落ちた。 寒さの為か彼女の体は小刻みに震えていた。 このままでは彼女が危ないと思った俺は、彼女の濡れた服を脱がそうと思った。 幸い直ぐに引き上げたからか、スカートや下に履いているタイツとブーツ、コートの裾が海水で濡れている程度だった。 まずはじめに彼女を車に乗せなくてはならないーーー俺はブーツを脱がせようと、彼女のブーツに手をかけた。 「やだ…!!…やめてッ!!! ……最低ッ!!!」 突然そう叫ばれ、俺は彼女に平手打ちをくらわされる。 何が何だか分からず、思わず打たれた左頬を押さえて彼女の顔を見た。 「ーーーーーーーーー…」 風で黒い髪が顔にかかり、青白い肌が、その隙間から覗いていた。 彼女は髪を邪魔そうにかき分けて耳にかけた。 現れた真っ黒い大きな瞳は涙で濡れていて、白目の部分は月の光が反射して青白い光を放っていた。 じぶんの心臓が速くなり、彼女から視線を逸らせなくなった。 この子はーーーーーーーー
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