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そこへ、るゐの大声が響いた。
「あらあらまぁまぁ! 五日ぶりにお帰りになられたというのに、寝室ではなく土間にいらっしゃるなんてどういうことですか?」
「しっ、……」
(るゐさん、いきなり何てことを!)
いくら婚約中の身とはいえ、正式に結婚するまでは純潔であるべきなのだ。そう教えられてきた月は、恥ずかしさで顔が熱くなってくる。
「るゐ。月が困っているだろう」
「そういう麗様だって、頬が朱に染まってますよ」
「るゐ!」
「はいはい。邪魔者はさっさと退散しますね」
どたどたとるゐが去って行く。
「やれやれ」
ふぅ、と麗が溜め息を吐き出し、薄水色の髪の毛をかき上げた。
「続きをしてもいいか?」
「あっ、はい」
動揺していた月は、ゲラァレ作りのことだと信じきっていた。
ところが違った。
麗は月の背へ両腕を回して、引き寄せ、ぎゅっと抱きしめてきた。
「だだだ、旦那様!?」
「食べたものと、同じ香りがする」
それはそうだ。食事を作ったのは、月なのだ。
月の頭の上で、すんすんと麗が鼻を動かす。
「美味しい香りだ。月の本当の香りも、きっと心地いいのだろうな」
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