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抱きしめられているから耐えているものの、そんなことを耳元で囁かれて自力で立っていられる自信がない。
今腕を離されたら、確実に腰が抜けて座り込んでしまう。
(……ずるい)
まだ、二回しか会っていないというのに。
月は、白皙の美貌を持つ婚約者に振り回されっぱなしである。
*
あれよあれよという間に、ゲラァレ専門の甘味処が開店することになった。
連日の蒸し暑さに、目でも口でも涼を楽しめる色とりどりのゲラァレはすぐに人気を博した。
何といっても、夏越家による新商品。話題と涼を求めて、甘味処には連日行列ができている。今やゲラーレは氷匣と並ぶ知名度となり、夏越家現当主の地位をますます確固たるものにしていた。
月の父と義母も来店し舌鼓を打ってくれた。麗によるあらぬ誤解はきちんと解けていて、改めて結納の儀を行う方向であると説明された。
「いらっしゃいませー!」
そして、月はその甘味処で働いている。
最初は麗からもるゐからも反対された。しかしゲラァレを教えたのは月だし、何よりも、働きたいと主張した結果、珍しく麗の方が折れた。
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