氷屋へ嫁ぐことになりましたが、旦那様は冷たいどころか溺愛してきます。

2/25
前へ
/25ページ
次へ
 伸ばしている黒髪も立派に結い上げられ、飾られた簪は少し重たい。  これらがいつ用意されたのか驚いたものの、この婚約自体が本人の知らぬ内に決まっていたのでつまりは()()()()()()なのだろう。  なお、おてんばな性格はなるべく隠しておけと、父からは再三注意された。商家としては、貴族と繋がりを持てる願ってもない好機なのだ。  そして現在。  月は、婚約者の到着を待つことなく急用で外出したという現当主の帰りを、乳母であるるゐと共に待っているところである。  話は冒頭に戻る。  この国の四季のうち『夏』を司る夏越家は、春の終わりから宮中行事で忙しい。  子どもでも知っている事実だ。  夏越家の家系図を建国まで遡ると、氷龍という伝説の生き物に辿り着く。  氷龍の力を受け継ぐ一族は、熱だけでは決して融けない氷を作ることができる。  そのため、夏が始まろうとするこの時期は、皇室へ氷を献上するのが習わしとなっている。 (上流階級しか口にできない、夏越家の氷。一体どんな味なんだろう。というか、嫁になったからといって食べられるかどうかは分からないけれど)
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

76人が本棚に入れています
本棚に追加