氷屋へ嫁ぐことになりましたが、旦那様は冷たいどころか溺愛してきます。

20/25
前へ
/25ページ
次へ
 だけど、わざと首を傾げてみせた。 「……申し訳ない。本来ならば最初に話しておくべき事柄をぎりぎりまで黙っていた」  麗の説明によると。  この模様は本物の鱗であり、夏越家の一族が氷龍の子孫である証。  普段は制御しているため現れないが、数年に一度、体調を崩すと鱗が出てきてしまうのだという。 「気味が悪いと、感じただろう」 「驚きましたけれど、気味悪さは感じませんでしたよ」  月は、布団から伸びた麗の人間の皮膚のままの手の甲へ、そっと手を重ねる。  そのまま、ゆっくりと指を動かして。  麗の腕の、鱗に触れる。 「硬くて、冷たいですね。まるで蛇のような――」  そのとき、月のなかに記憶が蘇ってくる。 「もしかして、あのとき助けた蛇が……」 (わたしは、確かに見たことがある)  薄水色の鱗が輝く蛇の姿を、月はまざまざと思い出していた。 *  それはまだ月の実母が存命だった頃のこと。  月はよく、家の近くにある森で木の実や虫の採集研究に勤しんでいた。  長雨が続き、久しぶりに雲の間から陽の光が覗いたとき。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

76人が本棚に入れています
本棚に追加