76人が本棚に入れています
本棚に追加
だけど、わざと首を傾げてみせた。
「……申し訳ない。本来ならば最初に話しておくべき事柄をぎりぎりまで黙っていた」
麗の説明によると。
この模様は本物の鱗であり、夏越家の一族が氷龍の子孫である証。
普段は制御しているため現れないが、数年に一度、体調を崩すと鱗が出てきてしまうのだという。
「気味が悪いと、感じただろう」
「驚きましたけれど、気味悪さは感じませんでしたよ」
月は、布団から伸びた麗の人間の皮膚のままの手の甲へ、そっと手を重ねる。
そのまま、ゆっくりと指を動かして。
麗の腕の、鱗に触れる。
「硬くて、冷たいですね。まるで蛇のような――」
そのとき、月のなかに記憶が蘇ってくる。
「もしかして、あのとき助けた蛇が……」
(わたしは、確かに見たことがある)
薄水色の鱗が輝く蛇の姿を、月はまざまざと思い出していた。
*
それはまだ月の実母が存命だった頃のこと。
月はよく、家の近くにある森で木の実や虫の採集研究に勤しんでいた。
長雨が続き、久しぶりに雲の間から陽の光が覗いたとき。
最初のコメントを投稿しよう!