氷屋へ嫁ぐことになりましたが、旦那様は冷たいどころか溺愛してきます。

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 月の指先が、鱗から離れる。そのまま、麗は指を絡めてきた。 「月。ひとつだけ、頼みがある」  声が、甘い。  熱で浮かされているのだろうか。  にわかに月の心臓は早鐘を打つ。 (鼓動が、うるさい。胸が詰まって、息苦しい……) 「な、何でしょう」 「名前を呼んでくれないか」  ……ぎゅ。  麗が、絡めた指を曲げてくる。  月は、じわり、と心の奥が疼くような感覚に襲われる。  なんとか正気を保たなければと本能が告げていた。必死に、唇を動かす。 「あ、麗、様」  いや、却って逆効果だったかもしれない。  身の内から生じた情を帯びる声は、どうしても上ずってしまう。 「麗様。わたしも、あなたのことが好きです」  名前を呼ぶ度に、自分のなかに知らない自分が湧きあがってくる。 「好きです」  麗は満足そうに口角を上げると、そのまま、眠りに落ちてしまった。 (……よかった)  その安堵は、麗が安らかに寝息を立てているからだけではないことに、月は気づきながらも蓋をした。 * 「目覚められましたよ!」  日もとっぷりと暮れた頃、るゐが告げた。
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