氷屋へ嫁ぐことになりましたが、旦那様は冷たいどころか溺愛してきます。

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 そして、何故だか後ろから抱きしめられたまま、月はおてんばだった子どもの頃の話をすることになるのだった……。 *  やがて、本格的な夏が訪れた。  今日も空は青く晴れ渡っている。  汗が流れるのを感じながら月は思う。こんなに暑いのに、蝉はどうしてあんなに激しく鳴けるのだろう。  さらには、もし月がふつうの氷だったら、あっという間に融けてしまうに違いないとも。 (暑い……)  空を見上げて目を細める。  (すい)はお休み。昨日の帰り際、小鳥遊(たかなし)と出かけるのだと嬉しそうに言っていた。暑いとはいえ今日はお出かけ日和だろう。  ということは、甘味処にたくさんの客が来店するということでもある。 (よしっ。わたしは、気合を入れて働こう)  月は柄杓を持つ手に力を込める。 「いらっしゃいませ、開店までもう少しお待ちください。って、旦那様。どうされたんですか」  店の軒先で打ち水をしていると、やって来たのは(あきら)だった。 「少し時間ができたから、月の働いている姿を見に来た」 「ご覧の通りです」  袖を捲り、襷をかけている上に、両手には冷水の入った桶と柄杓。
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