氷屋へ嫁ぐことになりましたが、旦那様は冷たいどころか溺愛してきます。

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 確実に、貴族の婚約者には見えない姿である。 「ずっと眺めていたが、活き活きとしていてとてもよい」 「ずっと!?」  麗は口元に拳を当てたまま、くすくすと笑う。 「月」 「……はい」  わざと月が少しむくれてみせると、麗は、懐から何かを取り出した。  そのまま月の髪に何かを挿す。 「うん、よく似合う」 「わたしからはまったく見えないのですが」  すると麗は再び懐から何かを取り出す。  手鏡で、月の顔を映してくれる。  ――見慣れない銀色の簪の先に、見たことのある花の、飾り。  月は麗を見上げた。 「これはもしかして、向日葵ですか」 「ご名答。取引先にたまたま隣国の行商が来ていて、見せてもらった中にあった」  向日葵から伸びた細い鎖の先には、小さくても眩い宝石が揺れている。 「金剛石(ダイアモンド)だよ」 「それは、とんでもなく高価な品物ということでは」  麗は微笑んだまま、唇の前で人差し指を立てた。 「今日も頑張って働いておいで。私の可愛い可愛い月」  月は照れながらも頷いた。 「旦那様も、お気をつけて」  頷くと、麗は歩き出した。  ひらひらと手を振ってくれる。歩く度、薄水色の髪が揺れている。 (一生、敵う気がしないなぁ)  その姿は月には煌めいて映った。  最愛の婚約者の背中へ向けて、月は声を張る。 「行ってらっしゃいませ!」    
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