氷屋へ嫁ぐことになりましたが、旦那様は冷たいどころか溺愛してきます。

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*  留学から帰国すると、婚約者が決まっていた。 * 「(あきら)様は心底残念そうにしておられたんですけどねぇ」  むしろ、発言主の方が心底残念そうに溜め息をついた。  はつらつとしたこの女性は、単身訪ねてきた(つき)を歓迎し、()()と名乗った。髪にほどよく白いものが混じっているということは、存命であれば月の母と近い年頃だろう。  ちりりん、と窓辺の風鈴が同意するように鳴る。 「ちょうど一年で最も忙しい時期でしょうから、仕方ないと思います」 「月様はなんとお優しい方なのでしょう! もう少し怒ってもよいのですよ?」 「いえ、流石にそれは」  突然決まった月の嫁ぎ先は、四大貴族のひとつ・夏越(なごし)家だった。  夏越家の現当主、夏越(なごし)(あきら)。  まだ見ぬとはいえ将来の夫ではあるものの、月が怒っていいような相手ではない。もし不興を買えば、月だけではなく藤堂家(実家)が滅びかねない。 (というか、どうして一商家の娘を嫁にしようと思ったのかしら)  実家からは、花車柄の振袖を着せられて送り出された。
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