268人が本棚に入れています
本棚に追加
「え、お茶するんですか」
「お酒あんま強くないのかなーって思ってさ」
彼の視線を感じて、赤くなっているであろう自身の頬を両手で挟んだ。
「だからって、コーヒーですか」
「紅茶もあるよ。クリームソーダもチョコレートパフェも」
冗談というわけでもなさそうだ。
まさか未成年だと思われているのだろうか——思いかけて、すぐに打ち消した。童顔だとはよく言われるが、さすがに30すぎてそれはないだろう。
鹿島田は、肌は紅潮しているものの、酔っ払うまでには到達していないらしい。ただ、シャツの白さのせいで、うなじの火照りがやたら目立った。
「もうあと1時間あそこにいたら、つぶれちゃいそうだったし」
「つぶれる? 俺が?」
「けっこうハイペースで飲んでたでしょ。あの店はそんなに危なくはないけど、まぁでも悪い奴はどこにでもいるしね」
たしかに、下戸の生田にしてはらしくないペースで飲んでいた。
絶えず視線の壁に囲まれて、酔わずにはいられなかったのである。
鹿島田が来たのは、ちょうど3杯目を手にしたところだっただろうか。
彼は生田の隣に座り、顔馴染みらしき店主と話し始めた。それから、店主が仲介する形で、生田を会話に交えてくれたのである。
会話相手を見つけて安堵し、さすがに飲むペースは落ちたが、それでも緊張はほぐしきれなかった。
「鹿島田さん、手フェチなんだと思ってました」
「どうして?」
「や、なんでもないです。気にしないでください……」
会話中、彼がしきりにグラスを持つ指先を見つめていたのには気づいていた。
生田はそれをしっかりと意識して、出がけに爪は切ってきたが、保湿もしてくればよかったなどという、どうでもいい心配をしていたわけだ。
しかしそれは、鹿島田のフェティシズムでもなんでもなくて、単にこちらの飲むペースを見守っていただけなのだろう。
ふと、自分の勘違いを恥じた。
最初のコメントを投稿しよう!