アレルギー

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 ともかく、僕たちは恋人同士という契約を解除する運びとなった。それからアレルギー発作も少なくなったし、義務に縛られることもなくなったし、正直言ってすがすがしい解放感を感じている。結果的には、別れて良かったと思っている。しかし、心から晴れ晴れというわけではない。やはり2年間も契約を結んできた、一番身近な人がいなくなってしまったことは、幾分寂しい気はする。自分への嘘から解き放たれたというのにこんな気持ちになるとは、やっぱり人間って複雑な生き物だ。  あれから半年。未だに嘘アレルギーに悩まされることはあるが、だいぶうまく付き合えるようにもなってきた。裏を返せば、今までの上辺だけの人間関係を断ち切るきっかけになった。  会社には何とか行くことができている。僕の言動が正直すぎるからか、関わりを避けているからか、同僚の田村も部長も、前のように僕には話しかけてこなくなった。だから密なコミュニケーションが必要な複雑な仕事も任されなくなったし、部長も僕のくしゃみに嫌味を言うこともなくなって、ストレスも激減した。向かいの席の女子社員たちも僕がくしゃみをすると無駄口を閉じるようになったので、煩わしい機嫌の取り合いも聞かなくて済むようになった。だから会社で一言も口を利かないで帰宅することも少なくなかった。  生きるためには誰かと関わらないとならないし、関わる限り少なからずとも嘘は付き物だ。でも嘘で塗りたくられる日常なんて嫌だし、嘘で誰かの機嫌を一時的にとっても、嘘だとバレた時点でその人との関係性は一気に悪くなってしまう。嘘をつかなければ保てない人間関係なんて無意味だ。だから全部断ち切った。それで良かったんだ。 僕は嘘アレルギーになって良かった。良かったんだ。 「ぶえっくしょん」  いつか元カノと行ったカフェで一人、キャラメルラテを飲みながら、僕は大きなくしゃみをした。 〈了〉
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