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そして私はいま、死の床にいる。1週間ほど前から食事を摂れなくなって、口から含むわずかばかりの水でだんだんと眠る時間が増えている。
波乱続きだったけど、いい人生だった。子供も産んだし、孫も生まれた。99歳まで、私はよく生き切ったと思う。
目を瞑ると、走馬灯のようにこれまでの人生が目の前を流れていく。
そういえば、私が人生のピンチの度に現れてくれた天使みたいな少年、あの子は一体誰だったのだろう?
本当に天使だったのかも知れないな……。
ぼんやりと夢現みたいな頭でそんなことを思い返す。
その夜、私の枕元にあの少年が現れた。
ぼんやりする頭で、私は少年に笑いかける。
「来てくれたのね」
「お疲れさま」
と少年は言った。
あのきれいな微笑みを浮かべながら。
「もう、いいよ。よく頑張ってくれたね。実は僕はあなたの曾孫の、空と言います。未来から来ました」
曾孫?未来?
「そのやり方についてはこの時代のあなたにはもう理解できないと思うので割愛するね。あなたが人生を全うしてくれないと僕は生まれられなかったので、こうして一生を見守らせてもらいました。時々存在が危なくなるくらい薄くなった時があって、正直焦ったよ。でもそのピンチもなんとか乗り切れたね」
少年、「空」君はにっこり笑った。
「ほら、今からあなたは天に召されるよ。あなたのそばであなたの孫が泣いていると、大丈夫ですか?って話しかける医師がいる。それが僕のお父さんだ。二人はそれから結婚して、しばらくすると僕が生まれるよ。ここまでを無事に乗り切ってもらう必要があったんだ」
少年は私の手を優しく握りながら話し続ける。
「なにしろあなたと来たら、人生で何度もピンチに見舞われて死を考えるものだから……その度に僕は消えそうになって困った。未来にはタイムマシンが当たり前にあるんだけど、自分の命が危ない時に限って過去に遡って3回まで利用していいという法律があるんだ。もうなんだかメチャクチャだよ。みんながいつも消えかかったり過去を変え損なって実際に消えたりしている世の中さ。僕も3回で済まなかったらどうしようって、気が気じゃなかったよ…」
彼は、死んでいく私にはよく理解できない話を喋り続けている。
でも、要するに私の用はもう終わったみたいね。
最後に一言、彼に言っておこう。
例え彼が自分のために私を助けたのだとしても、私にとって天使だったことに変わりはない。
ありがとう…
そう言おうと口を開いたところで、私の意識は途切れた。
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