チョキリズム

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 佐久間が小学生の頃、昼休みに校庭でサッカーをしている時だった。彼が蹴ったボールは勢い余ってゴールを飛び越え、フェンス下の草むらに入り込んでしまった。佐久間は自分の膝くらいまでに伸びきった草をかきわけて探し、ボールは難なく見つかったが、その近くで変なものを見たという。  草に埋もれて平たくて黒い物体がある。しかもあろうことか小さく蠢いているように見える。それは好奇心旺盛だった子どもの彼の興味を引くのには十分だったそうだ。だからそれが何なのか確かめようと、佐久間は意気揚々としながらその物体に鼻先がつくくらいに顔を近づけた。  カニだった。  どうして校庭にいたのかは分からないが、とにかくそこでカニが死んでいた。小さく蠢いているように見えたのは、甲羅が不自然に潰れた所から、無数の小さな虫のようなものが這い出してきた。  今思うと、あれば小さいながらにもカニの形をしていたかもしれない、と締めくくる目の前の佐久間は茹でたカニのように顔を紅潮させて、コップの中の芋焼酎を一気に飲み干した。 「なんとも奇妙な話だ。まあ、そんな光景を見ちまったんなら子供心にもショックだったろうな。でも、だからと言ってそこまで嫌わなくてもいいんじゃないか?ハサミで尻を挟まれたわけでもなしに」 「いいえ、それだけじゃないんです。明らかにやつらは僕を陥れようとしているんです。校庭でのカニ事件の日から、僕への復讐が始まっているんです」  佐久間は血走った目で空になったグラスを握りしめている。俺は忙しく走り回る店員を呼び止めて、芋焼酎のおかわりとだし巻き玉子を追加注文した。
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