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ぬらりひょん
「コタロウ、いるか〜?」
書店の入口から陽気な声がする。ぬらりひょんだ。
「おはよう。朝っぱらからどうしたの?」
僕は奥の番台から出て、ぬらりひょんを迎え入れる。
「これ、な〜んだ?」と悪戯っぽく笑いながら、ぬらりひょんは握った右手を差し出す。手の中に何かあるらしい。
「な〜んだ?って、それじゃ見えないけど」
僕が不満を隠さずにブスッとした表情をすると、「あはは!やっぱり分かりやすい奴だよなぁ、コタロウは。好きだなぁ」と言いながら左手の人差し指で僕の頬を突いてきた。
三十路男の頬を突いて何が楽しいんだろう。傍から見たら気色悪いじゃないか。
僕は顔を顰めながらぬらりひょんの指をかわした。
「まぁまぁ、そうツンケンせずに見てくれよ」と、ぬらりひょんは握った手をひらく。そのての中にあったのは…
「え…これ…」
僕が驚いてぬらりひょんの顔を見ると、彼は僕の反応を満足そうに見ていた。
「ぬふふっ。その反応が見たかったのだ…!」
ぬらりひょんは得意そうに高らかに笑った。
「まさか本当に見つけてくるなんて…」
「んー、と言うか、当てがあったから請け負ったんだけどねぇ」と、悪戯っぽく舌を出す。
「初めから言っちゃうと面白くないだろ?」
「僕は別に面白さは求めてないけど…」
僕が膨れ面をして見せると、ぬらりひょんは「はははっ」と愉快そうに笑った。
「それにしても…まさにこれ!って言うくらいイメージしていたもの、そのものだよ」
僕は素直に感心を示した。ぬらりひょんのての中にある石のことだ。
「まぁな。儂は相手のイメージを読み取ることができるんだが、コタロウのは読み取りやすいからな。目的のものを探すのも造作なかった」
「…僕の欠点のおかげで仕事が楽だったみたいだね。なんだか複雑だな」
僕の欠点は、感情や思考が顔に出てしまうこと。思っていることがダダ漏れになってしまうのだ。分かりやすいという点ではとっつきやすいと親しみを感じてもらえることもあるけれど、どうしても幼稚な印象を与えてしまう。それが僕の悩みのひとつだったりする。
「兎にも角にも、コタロウのその素直さのおかげで儂は仕事が楽だったし、おかげでいいものが見つかったのだ。素直なことは結構なことじゃないか?」
ぬらりひょんは僕を見ながら悪戯っぽくウインクする。揶揄っているのか慰めのつもりなのか分からない。ただ、悪気がないことは確かだ。
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