高嶺の花と根無し草、そして流れ星と

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3 翌日、早朝。 由太郎は神社の前に来た。 この時間帯、表の境内には誰もいない。 裏にまわると一軒の家屋がある。日葵の家だ。 一階建てで、造りは純和風。門から玄関の間には、土の道が5メートルほどあった。道の両脇には木と花が植えられている。 「どこやろ……?」 由太郎はキョロキョロする。 目的の人物、ヒカルがいない。 ヒカルとは一旦、公園で別れた。空が明るくなったら神社で待ち合わせしようと約束したのだが……。 「まぁ待ち合わせの場所は神社って決めたけど、正確な時間は決めんかったしなぁ」 由太郎は門柱に身を隠すようにして地面に座った。 昨日の朝までは気軽に入れた門の向こう側が、今日はひどく遠い場所に見える。立ち入り禁止エリアみたいだ。 どうしてこうなってしまったんだろうと、ため息が出た。吐息は、冷たい外気に触れて白くなる。由太郎のやるせない感情が形となって現れたみたいに。 ふと、胸の中が空っぽになるような感覚がした。 (今までは1人でも平気だったのに) 信頼していた人間の男に捨てられて以降、1人で生きてきた。 途中で親切な人間に何度か会ったけど、人はいつか自分を裏切る生き物なのだと言い聞かせていた。 なのに今はどうだろう。 たった1日、彼女に会えないだけで胸がストンと重たい。 (……日葵は、他の奴らとは違うんや。あいつは俺にとってーー) 「おはようございます」 唐突に、後ろから声が聞こえた。 振り返ると、目的の人物が立っていた。 左目のあたりに包帯を巻き、右目は赤く、レトロな学生服の少年。 「びっ、びっくりした! 相変わらず気配ゼロやな」 「そうですか?」 「つーかホンマに来てくれたんやな」 「はい。だって私たちは約束を……〝指切りげんまん〟したでしょう?」 青年(由太郎)と少年が、夜中の公園で指切りげんまんしたのかよーーーーと、突っ込む者はいない。 「それに私は流れ星ですから」 ヒカルは由太郎の隣に来て、門の向こうを見つめた。 「中に入らないんですか?」 「そんな勇気があったら流れ星に頼らんって……」 「では、ここは私が行きますね」 「え」 ヒカルは言いながら門を開けた。由太郎が一歩も踏み出せずにいた先へ、難なく進んでいく。 「待て! 危ないぞ!」 小声で警告する由太郎。 「戻れって! その辺り、落とし穴があるぞ!」 しかしヒカルは。 由太郎の心配を他所に、あっさりと玄関の前にたどり着いた。彼はちゃんと土を踏んでいたはずなのに、穴に落ちなかったのだ。 由太郎はホッとした。 が、同時に強い焦りも感じ始める。 日葵は由太郎に対して怒っている時、必ず落とし穴を作る。(※別に怒っていなくても作るのだが) 日葵の落とし穴に由太郎が落ちて、2人で軽く言い合って、それからやっと彼女の家に上がる。それが日常で、お約束だった。 もはや落とし穴は、2人にとってはインターフォンと同じような役割なのだ。 今回、それが無かった。 ということは。 (日葵は、俺を完全に拒絶している……?) 〝しばらく帰ってくるな〟 日葵の言葉が蘇る。 〝しばらく〟どころか〝二度と帰ってくるな〟と暗に言われているような気がして、由太郎は背中がサーっと冷たくなった。
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