東の森の深山様

1/1
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

東の森の深山様

先日の雨は去り、西の森は穏やかさを取り戻しつつある。雨が大気を洗い、地平まで現世を見晴らせた。森の土と木々は水分を吸って潤っている。朱越は普段から水が豊かな土地なので、少々過食気味なほどだ。菊一は自分の庵の縁側に腰掛け、西の森の様子を確かめた。 風志朗が起きるまで、常世の亡者にいくらか取られてしまったのではと危惧していた。亡者の護符をそっと取り出す。風志朗の着物から出てきたものだ。護符は効力を欠片も失っていなかった。東の杜番は子どもたちに亡者を一切寄せ付けなかったのだろう。菊一は東の森で過ごした日を思い返した。 東の杜番、冬仙坊の時代。朱越の西の杜番は不在だった。東の杜番の冬仙坊は、二人の子供を拾い育てた。 一人は人によく懐き、聞き分けがよく利口な鳶の兄弟子。もう一人は言うことを聞かず、まるで野生のまま傍若無人に振る舞うミミズクの妹弟子。 兄弟子の気質は東の森の亡者には不向きだった。その人懐こく利口な気質は、西の杜番にこそ適した。朱越の西は人里と繋がり、迷い込む人を追い返す杜番が求められたからだ。故に兄弟子はその長所を伸ばすべく、人と多く関わる町に預けられることが多かった。 妹弟子は人情を解さず、冬仙坊も手を焼いたが、それこそが東の亡者に対抗する希少な才能だった。冬仙坊は妹弟子に東の杜番としての技術を教え込んだ。冬仙坊の手元に置かれた傍若無人な弟子こそが、菊一の妹弟子であり、東の杜番の深山だった。 深山の働きは亡者の振る舞いと混ざり合い、ミヤマ様として語られる。深山はそれを、露ほども気にかけることはなかった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!