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食べ物の恨みは怖ろしい
「前に話したと思うけど、弟とは学年が一個違いでさ。あと、二つ上の姉も居るし、それから親父もなんていうか……わんぱくなタイプだから、母さんが夕飯作る時は大体、大皿に料理を盛ってたんだ」
その話を、私はプリンを食べながら相づちを打って聞く。
「唐揚げとか、こんもり盛られたのをみんなで箸でつっついてさ。小皿に分けるより洗い物が減るから。しかしそうなってくると、食べたいものって早い者勝ちになってくるんだよな」
「大家族あるあるだね」
私は一人っ子だから、そういう経験はないけど。ケーキのイチゴを最後まで取っておいたら残したと勘違いされて横から勝手に食べられたとか、微笑ましいエピソードとしてよく語られるよね。
「物心ついた時からそんなだったから、俺も結構、早食いの癖がついたな。で、まあ普通にご飯の場合はそれでいいわけだけど、困るのはジュースとか、お菓子とかなワケ」
「そっか。常備してあるやつね」
「冷凍庫のアイスとか。母さんが買ってきてくれてたのを見つけて、今食べたいわけじゃないけど、でもいざ食べたい時には、もう姉ちゃんや弟に食われてたなんて日常茶飯事なんだ。それで困った俺たちは家族間で、ある契約を交わした」
「契約?」
缶コーヒーのタブをぷしゅ、と開けながら聞き返す。なんだかのっぴきならない言葉のニュアンスだけど、契約って?
雷斗が言う。
「予約システムを作った。要は、今食べるわけじゃないけれど、これは自分が食べたいと思ったポテトチップスの袋とかに、油性ペンで自分の印をつけるんだ」
「そんな縄張り争いみたいな……」
でも、なるほど。
それで、例えば、お風呂上がりに食べたかったアイスとか、夜に買ってきたけど朝に飲みたいコーヒーとかを兄弟で横取りされる心配がなくなるのね。
「そっ。それで我が家に平穏が訪れた。……だがある日、事件が起こった」
声を低くして言ったかと思うと、でも雷斗はすぐに表情をほぐして苦笑いした。
「ま、起こったっていうか、起こしたの俺なんだけど」
「……何したの?」
「弟が印をつけたプリンを、俺が食べちまったんだ」
「ええっ?」
それは……弟くん、ショックだったと思う。食べ物の恨みって怖ろしいのに。
でもなんで?
ついさっき、食べ物にはきちんと印をつけるのがルールって言ってたんだから、そんな事態は起こらないはず。
「どうしてそんな事になっちゃったの」
「なんでだと思う。推理小説愛好会のメンバーならちょっと推理してみないか」
「えぇ……さすがに分かんないよ。雷斗が間違えたってだけでしょ?」
「ははっ。まあそうなんだけど、一応、頑張れば解ける理屈はあるんだ。ヒントは『英語』かな」
英語?
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