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濃厚カスタードプリン
前髪の揺れる感触に目を覚ますと、一緒の布団にくるまっていた雷斗が左手を伸ばして、私の髪をそっと撫でていた。
「あ……ごめん、起こした?」
「……うん。おはよ」
申し訳なさそうな顔をする雷斗だけど、レースカーテン越しに明るく白い光が射しているから、どうせもう起きないといけない時間だし。
というか、謝りながらも雷斗はまだ髪を触ってくる。
「……何してるの?」
「ん。左恵のおでこ可愛いなと思って」
……。
おでこって。
嬉しいは嬉しいけど、もっと褒める部分はないのか。
むうと唇を尖らせると不機嫌が伝わったのか、雷斗は髪をいじっていた手を、私の頬へと動かした。
「あと目。澄んだ瞳が可愛い」
「……ん」
「唇。声。キスが上手い」
「……へえ」
キスまで褒められるとは思わなかった。
さらに雷斗が、頬に触れていた手を私の背中に、そしてもう片方の手を私の太ももに動かしてきゅっと抱き締めてきた。
「胸。お腹。お尻、脚……全部好き」
「う、うん……」
このままだと全身撫で回されそうで、流石に恥ずかしい。彼のハグからそろそろ脱出して、布団を這い出る。
なんか向こうは、さみしそうな目で見てきたけど。
「ちぇっ。もっと触ってたかったのに」
「やだ。あー、暑い暑い。喉乾いた」
昨日はあれだけ夜ふかししたのに、男子って元気だなー。
ちなみに雷斗とは、今通ってる大学のサークルで知り合った仲。推理小説愛好会で、お互いが好きな作家さんがかなり被っていたから話が弾んで、それで付き合い始めたのが馴れ初め。
でもまだ、こうして彼のアパートに泊まるようになってから日も浅いし。勝手に冷蔵庫を開けるというのもちょっと気が引ける。一応断りを入れておかないと。
「ねー、なんか飲んでいい?」
「いいよ。ジュースならあったと思う」
了解を得てから冷蔵庫を開けると、ドア裏に差してあったコーラのペットボトルを見つけた。あとは牛乳の紙パックと……奥に視線を移すと、缶コーヒーが3個積んである。
これでいいかも。朝はやっぱり苦いのがいいよね。すっきりするし。
それと……コーヒーの横にスイーツが一つだけ置いてあるのが目についた。
半透明なプラスチックのカップに入った、プリン。コンビニで買ったらしくて、フタのフィルムに『超濃厚カスタードプリン』って書いてある。
「……」
美味しそう。
飲み物を求めて冷蔵庫を開けたつもりだったけど、見つけちゃったら食べたくなっちゃうよね。
「ねー、雷斗」
「ん?」
「プリン食べていい?」
「あぁ、そういえば買ってあったっけ。いいよ」
「やった」
コーヒーとプリンを両手に取って、るんるんスキップでテーブルについて小物置きに突っ込んであった使い捨てスプーンを取る私に、布団の上であぐらをかいていた雷斗が思わずといった感じでふふっと笑った。
ちょっと。失礼なヤツ。
「なに。こんなの食べたら太るとかいいたいわけ?」
「いやそうじゃなくて。プリン食べていいか訊いてくる左恵を見てたら、なんか弟のことを思い出してさ」
雷斗の弟くん?
そういえば前に、一つ歳下の弟が居るって教えてくれたっけ。直接会ったことはないけど、確か名前は……那衣斗。
あと、もし三男が生まれていたら親はその子に彩斗って名付けるつもりだったらしい。ライト、ナイト、サイトと並ぶのは結局実現しなかったみたいだけど……。
「弟くんが、プリンに何か関係あるの?」
「そう。小学生の頃の話なんだけど」
テーブルに頬杖をついて、雷斗は懐かしそうに言った。
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