3「あんた、冒険者試験受けるつもりなんでしょ?やめといた方がいいんじゃないのー?」

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 鬼コーチだとは思うものの、カナンの特訓が成果を出しているのは事実であるし、何より内容は間違っていない。来月に迫った試験をなんとしてでも突破するため、あらゆる工夫をしてくれていると知っている。全ては、ロークと共に十六歳で冒険者になるという夢を叶える、そのためだ。  これに失敗すると、次の試験は来年になってしまう。あまりお金のある家でもないし、これ以上家族に期待させて待たせるのも申し訳ない。一刻も早く冒険者になって稼いで、少しでも裕福な暮らしをさせてやりたいという気持ちもあった。――前世の自分ならば、考えられなかったことだ。 ――そういえば。前世の俺は、ずっと一人で冒険してたんだよな。  思い出すと、なんだか気持ちが萎んでくる。  というのも、前世の自分は念願の冒険者になったはいいが、ろくな人生ではなかったと記憶しているからだ。  今だからこそわかるが、恐ろしいまでにプライドの高い男だった。自分は冒険者として恵まれた才能があると、何かの天才だと信じたかった。金よりも何よりも、ライバルにマウントが取りたい一心で冒険者になったのである。故郷の町にいた年下のイケメンが、ひそかに片思いをしていた女性をあっさり射止めたのがあまりにも悔しかったがために。  その女性を振り向かせるか、あるいはそのイケメンを悔しがらせてやりたかったのだ。冒険者になったのは、そいつが冒険者としてある程度成功していたからに他ならない。  自分の方が、価値ある存在だと思い込みたかった。それで冒険者を目指して、旅に出た。だが、プライドが高く、誰かに命令をしてばかりいた自分についてきてくれる仲間などおらず。結局、不便と思いながらも一人で旅をする羽目になったのである。  そして、旅立ってたった一年で命を落とした。  ちまちまとイージーモードのダンジョンで薬草取りをするのに飽き飽きして、とにかく少しでも早く栄光を手に入れたくて――身の丈に合わない難易度の高いダンジョンに挑んでしまったのである。  仲間もおらず、単身で、しかも一年目の新人が挑んでいい相手ではなかった。無謀にも縄張りに踏み込んだ男を、見逃してくれるほど黒竜が優しいはずもなく。  自分はあっさりと、その尾に吹っ飛ばされて全身の骨が粉々に砕けた。しかも悲惨なことに黒竜は獲物が死んだことをきちんと確認せず、動かなくなったオズマにトドメも刺さないで巣の奥へ引っ込んでしまったのである。  おかげでオズマは瀕死の状態のまま、意識も失えずに苦しみぬいて死ぬことになったのだった。
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