3「あんた、冒険者試験受けるつもりなんでしょ?やめといた方がいいんじゃないのー?」

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 あの地獄は二度と体験したくない。指先まで骨が砕けていて身動き一つするだけで痛いし、口からは内臓の欠片が漏れ出て吐き気が酷い上に呼吸も苦しいし、息をするたび折れたあばら骨が肺に突き刺さって激痛が走るし。仲間がいれば、あるいはもっと自分の実力にあったミッションを着実にこなして力をつけてからにしていれば――避けられた悲劇だったのは間違いないことである。 ――だから俺は、今度はあんなことにならないようにって、最強チートの力をくれと女神に頼んで……でも。  その結果が、あの時にはしなかったタイプの苦労をする羽目になっている。やはり、努力もせずにチート能力で強くなりたいなんて願ったのが間違いだったと言わざるをえない。それで結局、共に旅立つ友に迷惑かけっぱなしになっているのだから。  ただ、あの時と唯一違うのは、その友がいることだ。こんな自分を助けてくれる誰かがいることに、心から感謝しなければいけない。支えて貰って当然なんて、けして思ってはいけないのだ。あの時の“オズマ”に何が足らなかったのか、今の“ローク”にはよくわかっているのである。 ――強くなりたい。でも、それは自分のためだけじゃない。……カナンのために、心も強い人間になりたい。そのために俺はきっと、人生をやり直したんだから。 「ねえ!」 「!?」  その時。唐突に後ろから声をかけられ、ロークはぎょとして振り返ることになった。見ればいつの間にかそこには、ピンク髪にツインテールという容姿の少女が立っているではないか。年齢は、多分自分と同年代くらいだろう。  彼女は鎧を身に付け背中に、大きな袋を背負っていた。ロークははっとする。――宝物使い特有の装備だと気づいたからである。 「お前……」  ロークが何かを言いかけるよりも先に、甲高い声で少女は言った。 「あんた、冒険者試験受けるつもりなんでしょ?やめといた方がいいんじゃないのー?」 「は?」 「さっきまでのあんたの訓練見てたけどさ、魔力防御もできてなければ、知識の方もてんでダメってかんじじゃん?そんな奴に、冒険者なんか務まるはずないと思うのよねー」  何言い出すんだこいつ。唖然とするロークを、少女は鼻で笑って言うのだった。 「まかり間違って合格されて、さっさと死なれても迷惑だし?くだんない夢なんか見るのやめなさいよ、みっともなーい。お友達も本当に馬鹿よね」  その言葉に。  ロークの中で、ぶちりと何かが切れる音がしたのだった。
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