1「超怪力スキルをお望みですね?わかりましたー」

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 *** 「あ……」  夢の中で、女神様の声を聴いた。ベッドの中で体を起こした少年・ロークは、ここで自分が前世の記憶を思い出したことに気づくのである。  己がかつて冒険者だった、オズマ・ラウであったこと。  どんなに努力しても、Dランクの実力しか手に入らないくらい才能がなかったこと。  そして女神様の力で、チートスキルを持って生まれ変わったこと。  たった今、その記憶を思い出したということ。 ――ま、まさか、本当に?  十六年間、辺境の村の少年ロークとして生きてきた記憶も人格も自分の中にはある。しかしその中に、まるで割り込むようにオズマとしての記憶が蘇った形だった。混乱しながら、ベッドに座ったまま自分の手をぐーぱーと握りしめる。ロークとしての人生の中で、凄まじい怪力を発揮できたなんてことはない。身体能力も人並程度、将来冒険者になれればいいなあ、なんてくらいのことをぼんやりと想像していたくらいの少年だった。  だが、その力が発揮されなかった理由が今ならわかる。あのスキルというやつは、オズマとしての記憶と、女神との約束を思い出さない限り発動しないものだったのだろうと。 ――ってことは今の俺、女神様が考えたような超怪力になってたり、する?  確かめてみたい。ドキドキしながら、自分の拳を握りしめる。  きっと女神様は、その怪力で人を傷つけないように、それを制御できる年齢に成長するまでストッパーをかけてくれていたのだろう。多分、きっとそうに違いない。 ――早く、試してみたい!  もしあの夢が本当なら。自分がチートスキル持ちとして人生をやり直せているというのなら。  今度こそ、夢を叶えられるはずだ。最強無敵の冒険者になり、世界中を旅してまわるという夢を。 「ローク?いつまで寝てるのー?」 「あ」  そうこうしているうちに、部屋のドアの向こうから母の声がした。 「朝ごはんの準備くらい、手伝いなさいよー。さっさと起きてらっしゃい、何時だと思ってるの」 「あ、ご、ごめんなさいお母さん!今……」  今行きます、と言おうとしたつもりだった。ベッドの柵に手をかけた瞬間、ばきり、と嫌な音が手の中で響くことになるのである。 「どわああああ!?」  そして、勢い余って転倒。自室の床に、思いきりキスをする羽目になったのだった。  ロークがちょっと触っただけで、ベッドの柵が粉々に砕けたのである。――間違いなく、チートスキルが発動した結果だった。結果だったのはいいが。 『まあ、それなりに苦労するでしょうけど、頑張ってください。あとは貴方次第なんでー』 ――う、ウソだろ!?こういう事かよ、女神様!!  チートになって転生したはいいけれど、怪力すぎて日常生活でいろんなものを壊しまくる体になってしまいました。――ご褒美どころか、完全に罰ゲームである。
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