39人が本棚に入れています
本棚に追加
***
「……理解したよ」
はあ、と。村のベンチに座って、カナンはため息をついたのだった。金色のあちこち撥ねた髪、緑色の眼、女の子みたいな顔立ちのロークの親友である。
正直、この状況を信じてくれそうなのも、相談できそうなのも、彼くらいしか思いつかなかったのだった。
ちなみに、彼は公園のベンチに座っていて、ロークはその真正面の地べたに座っているという状態。――今日だけで、家のベッドと、テーブルと、ドアをぶっ壊すというトリプルをやらかしてしまったのである。ここにきて、公共のベンチまで壊すようなのはごめんだったというわけだ。
「突然、そんなすんごい怪力持ちになっちゃったって言うから頭おかしくなったのかと思ったけど。……まあ、ジーニストの女神の力でもなければ、説明はつかないか」
ちなみにジーニスト、というのがこの世界の名前であったりする。遥か遠い昔、何もなかったこの世界に女神様が降りたって、その涙から海が生まれ、全ての命が誕生したという逸話があるのだ。ロークもカナンも敬虔な信者というわけではないが、村にも女神教の教会はあるし、熱心な人は毎週礼拝に行くと知っている。
正直、そんな女神様なんて本当にいるの?くらいな認識だったわけだが。実際、教会の女神像そっくりの女神様に会ってしまっていて、こんな力まで貰ってしまった以上――ロークとしては、その存在を信じる他ないし、他の人にも信じて貰うしかないのである。
まあ、想像以上に後先考えない、いい加減な女神様だったようだが。
「前世の君は、よっぽど馬鹿だったんだね」
「ばっ……はっきり言うなよ!」
「いやだってそうじゃないか。そりゃ、前世で苦労した挙句全然夢を叶えられないまま死んで、やり直しさせて貰えるとなったら喜んじゃうのもわかるよ?わかるけど、もう少し後先考えようよ。パワーだけ最強無敵になっても苦労するだけってなんでわかんないの。制御できなかったら、そんなの自分も誰かも見境なく傷つける凶器になるだけなんだよ?」
「うう……」
まったくもって、カナンの言う通りである。
てっきり女神様は、ロークが力を制御できる年齢になったところで記憶を呼び戻してくれたのだと思っていた。ところが実際はいきなりパワーが暴発、ベッドの柵は折るわ、テーブルに穴は開けるわ、ドアは外してしまうわと散々な状況である。
最初のコメントを投稿しよう!