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バッドエンドにてきみを待つ
赤星衛が私のことを好きな理由。それは、私が前世の恋人だったからだと言う。
「美弥。会いたかった」
赤星は縋るような、とろけるような眼差しで、愛しい恋人の名を口にする。「私の名前は美弥じゃない」という言葉は、驚きからするりと喉の奥に落ちてしまった。
赤星の語る「美弥」という女性は、江戸時代に生きた下級武士の娘らしい。武士といっても、明日の食い扶持も切り詰めるような貧乏御家人。美弥は実家の借金を肩代わりしてくれる条件で、日本橋に居を構える大店へと嫁した。商人の嫁という体のいい身売りに遭ったのだ。
「待ってください。その美弥という江戸時代の女性が、私の前世だというのですか?」
「憶えていないのか?」
赤星が驚愕したように目を見張る。驚きたいのはこちらだ。白昼の高校で、前世云々と大真面目に語る男子高校生が存在するとは。驚きを通り越して、恐怖すら感じる。
赤星のことは、幼馴染の絵梨香を通して知っていた。絵梨香と同じ美術部に入部した転校生。学年は、私や絵梨香より一学年下の二年生。変わった絵を描くと漏れ聞いていたけれど、中身まで変人奇人の部類であるとは知る由もない。
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