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「からかうのはやめてください。私は――」
「森瀬花乃だろ? 知ってる。でも、前世では美弥という名だった」
「前世なんて、本気で言っているんですか?」
「当たり前だろう。美弥、本当に忘れてしまったのか? 俺たちが出会った、ほおずき市のことも?」
ぴくりと反応したのは、ほおずきに奇妙な悪縁を感じたから。前世の記憶とやらとは別の気がかりだ。だというのに、赤星はぱっと表情を輝かせた。黙っていれば役者のような色白の細面に、朱が差す。
「思い出したのか?」
「……いいえ」
「いったいどうしたというんだ、美弥。来世でも共にあること誓った俺達なのに。――命懸けの恋だったのに」
赤星の縋るような眼差しには、仄暗い光が宿っている。命懸けの恋。公明正大に口にしたわりには、あまりにも情欲に塗れた眼差し。
ぞっと鳥肌の立った両腕を抱き締めるようにした私は、背を向けると、大急ぎで踊り場の階段を駆け下りた。
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