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非現実的な前世の恋物語には付き合う気がないと拒絶したはずなのに、それから赤星はべったりと私に粘着した。
大学受験を半年後に控えた三年生は、本館とは渡り廊下で繋がれた別館に学習の場を移している。最高学年に上がると、「隔離棟」と別名を持つ別館に移されるのは、開校以来の伝統らしい。おかげで、本館にある音楽室や美術室へ向かう際には、十分間の休憩丸々を要する。
赤星は、休み時間のたびに別館に出没するようになった。移動時間より私と過ごす時間が大事だと、胡散臭い笑顔で告げた。
「先輩! おはようございます。げっ、一限目から数学だったんですか?」
一限目の休み時間から現れた赤星に、クラスメイトが興味津々な視線を注いでいるのがわかる。ここが一般クラスではなく特進クラスだった場合、赤星に注がれる視線は殺気立っていただろう。朝一番の、半分まどろみに沈んだような頭には猛毒なほど、赤星の声は底抜けに明るい。私に向けた黒瞳は、純真な好意で満ちている。あの日の情欲に染まった眼差しなど、まるで白昼夢であったかのように。
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