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皮肉屋な兄vs絶対に結婚したい妹
目覚ましの音が私を24歳の現実に引き戻した。
久しぶりに見た幼少期の夢。それは私にとってはとても気分が悪いもので、朝から嫌な気持ちになった怒りを込め乱暴に布団を取り払う。
着替えて居間に向かうと、すでにテーブルの上に簡単な朝食が用意されていて、少し離れたソファの上には朝食を作ってくれたであろうその人……兄・和木恭介が横たわっていた。
「おはよ。たぶん冷めてると思うから、気になるなら自分で温めてな」
「う、うん。あの、ありが……」
「朝飯も作れないようじゃ、いつまで経っても彼氏なんてできないぞ」
素直にお礼を言おうとした瞬間、浴びせられたのはいつもの憎まれ口。
感謝の気持ちは一気に萎み、代わりに怒りがムクムクと湧き上がる。
「うるさい! 今日出来る予定だからほっといて!」
「なんだ? またマッチングアプリの男と会いに行くのか? 全く、彼氏が欲しいならそんな回り道しないで『神無仏無』のライブにでも行けってあれほど……」
「どう考えても回り道はそっちでしょ!? 神無仏無のライブはそもそも男女が出会うための場所じゃないの!」
「そんなこと言ってお前、毎度毎度『話が合わない』って交際に発展しないじゃん。なら最初から話が合う人の中から探した方が早いだろ? んで、神無仏無ファンだったらその時点で話が合うのは確定じゃん。ほら、近道じゃね?」
一般論で言えばどう考えても私の方が正しいのに、兄の意見にも一理あるため強く反論できない。
幼い頃から兄に音楽の趣味そのもの、そして音楽の趣味が合う人と結婚することを刷り込まれてきた私は、男性を選ぶ基準の一つに音楽性の一致が絶対条件として鎮座してしまっている。
そういう意味では兄が言うことはもっともなんだけれど、結婚に焦りを覚えている私はより確実に結婚願望のある男性と繋がれるマッチングアプリに的を絞り、心血を注いでいた。
「余計なお世話だよ! てか兄貴こそ休日なのにそんなグータラしてないで、彼女でも作って遊びに行けば?」
捨て身の反撃に出た私に、兄は余裕の笑みで応える。
「俺は彼女居るから。今旅行で宇宙にいるから会えないだけで」
「どんなお金持ちだよ! 吐くならもっとマシな嘘を吐け!」
朝ご飯を放置しズンズンと玄関に向かう私の背に、兄の声が追い縋る。
「晩御飯はどうするんだ?」
「要らない! 今日会う人と食べてくるから!」
吐き捨て、私は玄関の扉を勢いよく閉めた。
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