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神無仏無な世界で、カズと出会う
「音楽(主にロック)が大好きです! 『俺×闘』『ホモ・サピエンズ』『Viking by King』などいろいろ聴きますが、特に『神無仏無』が一押しです!」
私は衝動的に、この「カズ」というハンドルネームの人物にいいねを送った。
神無仏無はもちろんのこと、その他のバンドの好みも被っている。被りすぎている。
この機は絶対に逃せないと本能が叫んでいた。
ちょうど相手もアプリを開いていたのか、すぐにいいねが返ってきてやり取りが始まる。
私は昼の落胆のことなどすっかり忘れ、手に汗握り居住まいを正す。
「はじめまして、りぃと申します! 音楽の趣味が合いすぎていて、これは運命だと思い即いいねしちゃいました!」
少しがっつきすぎたかと反省したのも束の間、即座に返事がくる。
「カズです、はじめまして! いいね、ありがとうございます! りぃさんはどんな曲を聴かれるんですか?」
やり取りが進むにつれ、私はどんどん浮かれてゆく。
スゴイ。本当に運命みたいだ。兄貴以外でここまで趣味が合う人なんて、今まで一度も会ったことがない。なんなら兄貴以上かも?
……と、ここでようやくある考えが浮上する。
慌てて彼のプロフィールを再確認。
年齢……27歳
居住地……岡崎市
職種……車関係
手からケータイが滑り落ちる。そこに記されている情報は全て、兄のものと一致していた。
これらが示すもの。それは、このカズという人物が兄本人であるという可能性。同時にカズが苗字の和木から取ったものだろうということに気付き、可能性はほぼ事実へと変わる。
本日二度目の落胆が私を襲う。やっと運命の相手に出会えたと思ったら実は兄でしたなんて、神も仏もないとはこのことだ。神無仏無だ。ちっとも笑えない。
だから私がここで兄を逆恨みし、悪知恵を働かせてしまったことも、全て神無仏無なこの世界のせいという言い訳をさせてほしい。
「私、カズさんのこともっと知りたいな」
そう。このまま兄をオトし、その後「りぃ」の正体が妹であることをバラし絶望を味わわせる。それが私が急遽打ち立てた作戦だった。
大体「彼女がいる」などと嘯いておきながら自分もこっそりマッチングアプリで彼女探しをしている兄も悪いのだ。と、しっかり免罪符も発行されている。
いつも超然とした態度で私をからかう兄を逆に手のひらの上で転がすことを想像し、私はそっとほくそ笑んだ。
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