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ケータイ越しに縮まる距離
ケータイ越しの兄との会話は続く。
「カズさ〜ん。聞いてくださいよー(泣)今日仕事でね、……」
「あちゃー。それは大変でしたね」
「つら〜。納期間に合うかな」
「可能なら、同僚にお願いしてみてはどうでしょう? 納期が厳しいので手伝って頂けませんか? って」
「でも……」
「辛い時は頼っていいんですよ。ほら、『心温暖』の歌詞でも言ってるじゃないですか。
『温暖温 心温暖 ドツボにハマってさぁ大変 仲間が出てきてこんばんは お仲間の言うことにゃ お嬢さん頼りなさい』って。
もちろん僕も、微力ながらりぃさんの助けになりたいです」
「カズさん〜(泣)」
趣味が近いだけあり、やはり感性も似ているのだろう。カズとしての兄はいつも、私が欲しい時に欲しい言葉をくれる。
突然、部屋のドアをノックする音。「はーい」と応えると、「温かいココア淹れるけど、梨沙も飲む?」と兄の声がする。
「なんで急に? いつもそんなの言わないじゃん」
「いや。なんか今日疲れてそうだったからさ」
「……別にぃ」
「で? 飲むの?」
「……飲む」
アプリではりぃさんのフォロー、家では妹のフォローと忙しい人だなとクスリと笑う。
その瞬間ふと気付く。いつのまにか当初の目的を忘れ、普通にカズこと兄との交流を楽しんでしまっている自分がいることに。
何やってるんだ、と頭をブンブン振る。
兄をオトすどころか、これじゃまるでミイラ取りがミイラだ。
今回は私が兄貴を転がすんだ! 簡単に絆されると思うなよ!
心内で宣言し、憎き兄を追い居間に向かう。
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