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『10時にチケット売り場で』
「はい、到着しました」
『最初はどこから行く?』
「メリーゴーランドからでどうですか?」
できれば知り合いには会いたくないから、遊園地の奥にあるメリーゴーランドにした。私はペガサスに乗った。音楽に合わせてゆっくりと回転が始まる。
『ここのメリーゴーランドって、都市伝説があるって聞いたんだけどナオちゃん知ってる?』
「初対面の人に“ちゃん”付で呼ばれると、照れますね」
『そう?僕のこともアキラって呼んでよ、今日は初めてのデートなんだからさ』
「じゃあ…、アキラの言ってる都市伝説って、ここにはたくさんあるみたいだよ」
『そうなんだ、その中に願い事が叶うのもあるといいね』
「うん、あるよ、きっと」
音楽が終わると、ゆっくりと回転が止まった。
『次はどれにする?』
「ちょっと待って、喉が渇かない?」
『何か買ってこようか?』
「うん、私はコーラにする」
『僕はアイスコーヒーだ』
紙コップの中の氷が、少し火照った体に気持ちいい。
「氷が美味しい、冷たくて」
『僕のアイスコーヒーは氷が溶けちゃったよ』
「あら、残念!じゃあ、次のアトラクションは?」
『あ、あれにしよう、ちょっと月までって名前がカッコいいやつ』
「ジェットコースターだね。私最前列ね!」
『マジか、僕は後ろにしとく』
人数の加減で最前列には座れなかったけれど。
「わりと迫力あったね!」
『わりと?僕はもう足がガクガクしてるんだけど』
「少し休む?」
『そうしようか?』
「あっちの木陰がいいな」
『あー涼しそうだね』
星屑のステージの後ろにある木陰を目指した。いくつかのベンチが設置されていて、一休みするにはちょうどいい。
「おお!風が気持ちいいね」
『ほんとだね、これでナオの膝枕があれば、ぐっすり眠れそうなんだけどな』
「はい、どうぞって言いたいけど、誰かに見られたら、ね?」
『だよね、我慢しまーす』
そこでしばらくいろんな話をした。子供の頃のこと、学生時代のこと、好きな食べ物のこと、それに、これから始めようと思ってることなんかを、とりとめもなく話した。ただ一つ、お互いの家族のことだけは、口にしなかった。
「そろそろお腹空かない?」
『いいね。なに食べる?』
「とりあえずレストラン行ってオススメとか聞いちゃお!」
『そうしよう』
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