【殺戮】プロローグ

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【殺戮】プロローグ

私は何の為に生まれてきたのだろう。 ただ、普通の幸せが欲しかった。こんな事、望んでなんていなかった。特別な力も、特別な家柄も、特別な扱いも。そんなもの何一つ要らなかった。どうしてこんな事になってしまったんだろう。ただ、普通の女の子で在りたかっただけなのに。 『早く、私を殺して下さい』 今の願いはたったそれだけ。 * 戦後、とある村での出来事。 「…ゆ、許し――ぐギィ!」 その男、斧を片手に村人を次々と惨殺していった。酷い臭気をそこかしこと撒き散らし、月明かりのもと浮かぶのは、鈍い光とまだ生温かいであろう血溜まり。 「これは、罰だ、お前達、絶対に、許さない、呪って、やる」 「ひっ、ひいいい」 「後生だからやめてくれぇ!」 「儂らが悪かった…!」 「た、頼む、どうか…ッヒぐ!」 男の手は止まる事を知らない。白衣はもう何色なのかさえ解らない程に血と泥で汚れ、顔はまさに鬼のようだった。 「生け贄を、用意、しろ」 心臓を一突き。鯨の潮吹を髣髴(ほうふつ)とさせる夥しい量の鮮血が、勢いよく吹き出して男の顔にかかる。それでも男は瞬き一つしなかった。 「お前らの、子供、十五に、なったら、差し出せ」 紅い血を滴り落としながら男は言う。 「毎年、毎年、差し出せ」 グチャリ。男の手から離れた斧が、既に(むくろ)と化した〝誰か〟の顔を無惨にも潰した。その無慈悲な音に、残り少なくなった村人達は息を潜めて戦慄(わなな)く。ああ、きっと、もう、逃げられないのだろうと。 「ほたル、ホタる、ホタル、ホタルホタルホタル、蛍…」 呪詛というよりは耽美(たんび)な、けれども感情を欠落させた抑揚のない声。薄暗い、(ひとみ)。其処へ宿るものとは一体何だったのか。 「父さんが、助けて、やる」 梅雨目前の、 蛍が飛び交う幻想的な季節の惨劇は未だ公にされてはいない。
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