うらやまスペースブラザーズ

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 生まれたころから一緒だった。  何故なら俺達は双子だからだ。  一応俺の方が早くハイハイできるようになったし、立ち上がったし言葉を発することができたので、便宜上兄となっている。  弟は「兄ぃ」と呼んでくれる。 「兄ぃ……もう帰ろうよ。宇宙人なんているわけないんだからさ」 「黙れ! 絶対いるんだ。この裏山のどこかに、きっと宇宙人の住処があるんだ!!」  時刻は深夜0時を回ったところ。  まだ高校生の身分なので警察に見つかれば一発で補導対象だが、幸いここは山の中。  警察がいるわけもない。  その代わり、虫はたくさんいるし、なんなら野生動物が飛び出してくる可能性はあるけども。 「兄ぃ、高校生にもなって宇宙人探しとか馬鹿だよ、馬鹿。いい加減夢を見るのはさ、やめようよ……」  弟はため息をついた。  俺は奴の胸倉をつかみ上げる。 「馬ッ鹿野郎!! 俺はな、部屋から見てんだぞ? この裏山に光る円盤みてーなのが度々降りてくるのを! あれはUFOだ! もしかしたら宇宙人がこの町を攻める算段を立ててんのかもしんねーだろ? そしたら誰がこの街を守るんだよ!!」 「そこは警察とか自衛隊とかさ……」 「俺達の住む街を俺達で守らんでどうすんだ!! ってことで行くぞ」 「兄ぃ……やっぱ馬鹿」  そう言いながらも弟は俺の後に続いた。  なんだかんだ聞き分けはいいのだこいつは。  いや、もしかしたら俺と同じで熱い正義感の持ち主なのかもしれん。  兄弟だし。 「今日は、この沢に沿って歩いてみようと思う」  山道を進んでいった先には、小さな沢があった。  昼間は1時間あれば簡単に一周できる裏山だが、夜になると道が分からなくなることはたびたびだ。  そのせいで未だに夜の裏山の隅々までを探索できたことは一度もない。宇宙人の秘密基地がどこにあるかなんて見当もついてない。  夜にしか現れないあの光る円盤が悪い。 「えー、やめとこうよ。水があるところは野生動物とか虫とか危ないよ? 足場も悪いし……」 「じゃあお前だけ帰れ。俺は今日こそやつらのアジトを突き止める! 突き止めるまで家には帰らん!!」  ずんずん沢を遡上していく俺。  足音は一つだけだった。 「……ん?」  振り返ると、弟は立ちすくしていた。  おかしい。  今まで弟はどんなに理不尽だろうと最終的に俺の後を付いてきた。  俺はそれに安心して全力で前に進むことができた。  正解の道を歩いていると後ろの弟に肯定されている気分だったのだ。 「来ないのか?」  思わず強めの口調で尋ねてしまった。  馬鹿! 俺が帰れって言ったんだ。  奴が帰宅を選んだとしてそれは俺の言葉に従ったまで。  弟に罪はない。  むしろ、ついてくるだけだった弟が自ら選び取った選択なのだ。  ここは笑顔で送り出さなければ―― 「兄ぃ、ここから先に進むなら覚悟が必要だよ」 「覚悟?」  弟の不意な言葉に俺は思わず訊き返す。  くそ、笑顔で「帰っていいぞ」って言おうと思っていたのに。 「そう、覚悟。もしかしたら何かを失うかもしれない覚悟」  弟はなんだがやけに冷静だった。冷静に笑みを浮かべていた。  いつもよりも大人びた口調と様子は、いつもの弟ではない気がした。 「覚悟、覚悟か……」  俺は腕を組んでうなる。  ……いつもの弟ではない?  そして、ここは宇宙人が巣くっているかもしれない裏山。  ま、まさか――。 「お前、既に宇宙人にキャトルミューティレーションされているのか!?」 「……え?」  弟の笑みが崩れる。  俺はずんずん弟、いや宇宙人に近づく。 「弟の声で戸惑うんじゃないこの侵略者が!! 返せ!! いつもの弟を返せええええ!!」  襟首をつかんでぶんぶん振る。 「お、おおお、落ち着いて兄ぃ!! そ、そうじゃなくて! いや、間違ってはないんだけど!!」 「間違ってはいない……だと!? 貴様やはり……弟から出ていけ! 出てけえええ!!」  やはり、俺の想像は間違っていなかった。  裏山の宇宙人はこの町を侵略しようとしていたのだ。  弟、いや宇宙人は俺の手からどうにか逃れる。 「兄ぃ! だから違うって僕はミューティレーションされてるんじゃない!! もともと宇宙人なんだよ! 兄ぃもそうだ!」 「ふざけたことを!! 証拠はあるのか証拠は!!」 「……父さんを見たことないだろ? 母さんは海外出張って言ってるけどアレは嘘だ。本当は宇宙人なんだ」 「嘘つけ!! こうなったら110番してやる! 俺も補導されるが貴様も道連れだ!!」  宇宙人の戯言なんて聞いてられるか!  スマホを取り出した瞬間、弟が俺の腕に組み付いた。 「貴様、何を……肉体言語か!」 「今、証拠を見せてあげるよ!!」  弟が俺の指を無理やり天に向けさせた。  俺の指先が光り輝く。 「なんだ!? うっ――」  瞬間、辺り一面が昼間のように明るくなる。  目を開けると、巨大な光る円盤が俺達の頭上に現れていた。 「な……」  スマホが手から滑り落ちる。  弟は悲し気に笑った。 「これが証拠だよ。この宇宙船は兄ぃが呼んだんだよ? 僕たちが宇宙人の血を引いているからできるんだ。父さんが教えてくれた」  そんな、馬鹿な。 「……俺は町を守る側じゃなくて侵略する側だったのか」 「兄ぃ。宇宙人だからって必ずしも侵略するわけじゃないよ?」
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