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「おはよう。気分はどうかな?」
気が付くと窓から陽がさしていて、スズメの鳴き声がした。
「おはよう。もう大丈夫。昨日はありがとう。」
咲花のベッドで寝ていたらしい。自分のベッドを見ると汚れたシーツははがされていた。
「シーツもっていってくれたの?」
「うん、パジャマも着替えよっか。」
頭がゆっくりしか回らない。でも咲花がいるならゆっくりでもいいかと思える。
「食欲はどう?」
舞花はゆっくり首をふる。自分が首をふる日が来るなんて。
「んじゃ一緒にお茶漬け食べない?」
お茶漬け。それなら食べられそうな気がする。身体が温まってきっと顔色も良くなるはずだ。
「食べたい。言ってきてくれるの?」
「うん。でもよかった。何か食べられて。」
今まで食べられなかった咲花に言われるのがどうしていいかわからなかったが、咲花も同じことを思ったようだ。ふふっと照れ笑いしていた。
「舞花、今までよくがんばったね。」
ドアをあける前、背中を向けたまま咲花は続ける。
「うん…。」
頑張ったのだろうか。何も結果も出ていないけど。
「頑張ったかどうかわからない。つらかったけど。団体にもれたこともつらかったけど、咲花に支えてもらって練習始めたのにうまくいかないと八つ当たりしてしまって、そうこうしてるうちに友達もいなくなって。体操もだめ。性格もだめ。貧乏親なし。もうダメだね。」
言葉にしてわかった。本当に自分は何もかもだめだ。咲花に支えてほしかったけど、支えてもらっても自分は何もできない。
「そんなふうに思わないで。舞花はできる。素晴らしいものを持っている。体操の才能も周りを幸せにする天性の才能も。でも誰だってスランプはあるの。頑張ってもうまくいかない時もあるの。でも舞花ならできる。」
「どうしてそう思うの。」
「私がついてるから。」
無邪気な笑顔が振り向いた。
「なんじゃそら。」
もっと励ましてくれるのかと思ったら、つられて笑ってしまった。
「当たり前でしょ。舞花は光るものを持ってるわ。でも、一人じゃだめなの。支える人がいなきゃ。何があっても裏切らないで、絶対味方でいてくれる人がいなきゃ。普通の人なら両親がいる。私にもお父さんとお母さんの記憶がある。でも、舞花は赤ちゃんだったから記憶もないでしょ?だから、私が舞花のお母さんになるのよ。ずっと味方だから。ずっと見守ってるから。それだけで舞花は羽ばたけるから。」
咲花はいつの間にか舞花の手をとり、蝶のように広げていた。朝陽に包まれた咲花の顔は天使のようにきれいで、花のようにいい香りがした。
「さ、早く着替えないとみんな起きてきちゃうよ。」
しまった。パジャマを洗濯に出すところを見られるわけにはいかない。何を言われるかわからない。舞花に余韻にひたる間はなかった。
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