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真夜中の散歩から帰るとドアポストに1枚のチラシが挟まっていた。乱雑にポストから引っ張り出してみたところ、それはゴシック体で文字が並べられた質素なチラシだった。
『あなただけの彼女、作りませんか?』
くしゃくしゃに丸めなかった理由は単なる好奇心だ。
そこにはこう続いていた。
『1ヶ月限定の恋人“ハニーパウダー”』
俺はそのチラシを持ったまま家に入り、ベッドの上でスマホとの睨めっこを始める。
印字されたQRコードを読み込むと、チラシとは打って変わり原色で構成された華々しいウェブサイトが現れた。
『カタログ』という項目にひとりひとりの顔写真、年齢、身長、大まかな性格のタイプ(おっとり優しいお姉さん系など)が記されていて、タップするとキャストの詳細ページに飛べる仕組みになっていた。
風俗店みたいだな……。
この時はまだ作業的ににカタログをスクロールしていたのだが、自分でも気付かない間に意識はスマホの画面に奪われていった。例えるならば、意味も無くに再生を始めた動画に釘付けになってしまったように。
俺はひとりの少女のプロフィールを吟味していた。
『天真爛漫☆素直で明るい妹系美少女』
ひと言でいえば美少女だ。きりっとした目つきにシャープな輪郭、瑞々しい肌質は画面を通しても伝わってくるほど。雪のように綺麗な顔は笑ったらどのように崩れるのだろう。
溌溂とした笑顔で甘えてくる美少女を頭上で動かしてみた。
「馬鹿みたいだ」
自分に呆れながら俺は自嘲する。本当に俺は救いようのない馬鹿なんだろう。
迷いはしなかった。こうして俺は口車に乗せられたように「ハニーパウダー」を注文してしまった。
こうして俺の自殺は1ヶ月だけ先送りとなったのだ。
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