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第2話 冷たい彼女
指定の口座に代金を振り込むと、翌日にそれは届いた。
因みにこれが結構高かった。手持ちでは到底足りず、母親が俺の為に保険として用意してくれていた金に手を付けた。最低、それは承知の上だ。
ちょっと厳重すぎやしないかと思うぐらいに包装されていて、丁寧に解いていくとやがて真っ白い缶が姿を見せた。ドラッグストアで見かける粉ミルクみたいな大きさの缶だった。付属の説明書を開き、読む。
『缶のふたを開けて40度のお湯を内側の線まで注いでください』
給湯器のスイッチを押して蛇口をひねる。線を超えてしまわぬよう、ちょろちょろとお湯を入れた。
『高いところや極端に狭いところを避け、缶を放置してください』
この粉が女の子になるのだから、人ひとり分のスペースが必要だと言いたいのだろう。安全が確保されている場所と考えると、必然的にお風呂場という選択になった。
『個体差によりますが、10分から15分ほどで完成します。まずは優しく、声を掛けてあげてください』
俺は家を出た。コンビニで酒を買おう。
好みが分からないからチューハイやビールや発泡酒をひと通りカゴに入れる。あとは無難なおつまみと甘いお菓子、たらふく飲んだ後のためにミネラルウォーターを2リットル。
アイスも買おうとしたが止めておく。あんまし最初から用意しちゃって引かれたら嫌だからな。
俺はいつにもなく浮かれていた。誰かと一緒に酒を飲むなんて初めてだった。アパートに戻る頃にはとっくに15分なんか過ぎていた。飛び込むように家の中に入って、それから胸に手を当て鼓動を落ち着かせる。
よし、と小さく呟いてから風呂場のドアを開けた。いよいよ初対面、かつてないほど期待に胸が膨らんでいた。
「こんにち……」
言葉がつっかえる。
美少女は俺の顔を凝視していた。バスタオルを1枚巻いただけの無防備な姿で。
俺と彼女は互いを針で突き刺したように、動きが止まった。幾らか秒を刻んだあと、先に動いたのは彼女の唇だった。
「……服」
「あ、服はないのかい?」
少し間を置いてから、彼女の冷たい声が胸に刺さる。
「見て分かんない?」
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