第2話 冷たい彼女

1/5
前へ
/191ページ
次へ

第2話 冷たい彼女

 指定の口座に代金を振り込むと、翌日にそれは届いた。  因みにこれが結構高かった。手持ちでは到底足りず、母親が俺の為に保険として用意してくれていた金に手を付けた。最低、それは承知の上だ。  ちょっと厳重すぎやしないかと思うぐらいに包装されていて、丁寧に解いていくとやがて真っ白い缶が姿を見せた。ドラッグストアで見かける粉ミルクみたいな大きさの缶だった。付属の説明書を開き、読む。 『缶のふたを開けて40度のお湯を内側の線まで注いでください』   給湯器のスイッチを押して蛇口をひねる。線を超えてしまわぬよう、ちょろちょろとお湯を入れた。 『高いところや極端に狭いところを避け、缶を放置してください』  この粉が女の子になるのだから、人ひとり分のスペースが必要だと言いたいのだろう。安全が確保されている場所と考えると、必然的にお風呂場という選択になった。 『個体差によりますが、10分から15分ほどで完成します。まずは優しく、声を掛けてあげてください』  俺は家を出た。コンビニで酒を買おう。  好みが分からないからチューハイやビールや発泡酒をひと通りカゴに入れる。あとは無難なおつまみと甘いお菓子、たらふく飲んだ後のためにミネラルウォーターを2リットル。  アイスも買おうとしたが止めておく。あんまし最初から用意しちゃって引かれたら嫌だからな。  俺はいつにもなく浮かれていた。誰かと一緒に酒を飲むなんて初めてだった。アパートに戻る頃にはとっくに15分なんか過ぎていた。飛び込むように家の中に入って、それから胸に手を当て鼓動を落ち着かせる。  よし、と小さく呟いてから風呂場のドアを開けた。いよいよ初対面、かつてないほど期待に胸が膨らんでいた。 「こんにち……」  言葉がつっかえる。  美少女は俺の顔を凝視していた。バスタオルを1枚巻いただけの無防備な姿で。  俺と彼女は互いを針で突き刺したように、動きが止まった。幾らか秒を刻んだあと、先に動いたのは彼女の唇だった。 「……服」 「あ、服はないのかい?」  少し間を置いてから、彼女の冷たい声が胸に刺さる。 「見て分かんない?」
/191ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加