何てことはない日でも、こんなに君を想ってる

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何てことはない日でも、こんなに君を想ってる

完璧が欠陥品に負ける。そんなよくある不条理、今更嘆くつもりはない。 だが、お前が傍に居る以上、どうしたって刻印の如く刻まれた胸の痛みは消えてくれやしないのだ。 「星司、」 「おっ、道國(みちくに)……どうした?」 陽の朱に染められた道場内。今日もコイツは一人残って、鍛練を続けていたらしい。 薙刀を握る手は痣だらけで、紺色の胴着は汗でその色を濃くして……最早、既視感も仕事をしない程に見飽きた光景。それなのに、何故俺はこうも此処へと足を運ばせてしまうのか。 「休むのも修行の内だと言った筈だ。それ以上は身体を壊すぞ」 「休んでるよ。ただじっとしてられないだけ」 「姫麗奈(きりな)も待ち惚けしてるだろ? たまには早く帰ってやれ」 「アイツなら分かってくれてるから問題ないって」 爽やかな笑顔をかまして、また素振りを始める。その直向きな姿に羨望と憎悪が同時に沸いて出た。 世には努力型の天才と、才能型の天才がいる。 星司は一体どちらなのかと考えると、前者だと……そう思っていたのに。何度か手合わせをする内に、この男はセンスの塊だと納得せざるを得なくなった。 それに気付いてからと言うものの、自分がしてきた血の滲むような努力が途端に馬鹿らしくなったんだ。勝てない。婚約者までにも寂しいと泣かれ、寝る間も惜しんで鍛練を重ねて来たと言うのにーー勝ちが全く見えない。 星司が薙刀への拘りを楽しそうに、時に突っ掛かって来るように語る度に、どれだけ俺が惨めな気持ちに追いやられているか。コイツは気付きもしないのだ。 「女は気丈に振る舞うのが得意なだけで……中身は子供のように寂しがり屋な奴ばかりだよ。何せ、それが一番挙げられる浮気理由な位だからな」 「もし姫麗奈がそんな女だったら、悪いけどお別れだな」 「何だと……?」 「薙刀の事では、あれこれ口出されたくないし……何より、」 アイツが薙刀しか知らない俺を好きだって言ってくれた事、今でも信じてるから。 余りにも屈託のない笑顔が朱色に咲く。 俺とは違い、馬鹿素直で嘘がない男。まるで合わせ鏡で、取り繕いばかりの醜い自分を映し出されてる気分だった。 どんな顔を向けていいかも分からずに、苦笑を潜める。 そんな俺を置き去りに、宙を裂くような音は絶え間なく鳴り続けた。
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