神の見えざる手

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神の見えざる手

「貴方が石原百合香さん殺害の!」  まるでアイドルのようにダンスパフォーマンスをしながらポーズを決めた。 「な、なにを言ってるんだ。どうしてオレが真犯人なんだ?」  そんなはずはない。オレは動揺し、かすかに頬が引きつった。  こんなバカそうな女子高生にオレの綿密に計画した完全犯罪が見破れるはずはない。 「フフゥン、往生際が悪いですね。貴方は西園寺(さいおんじ)財閥のお嬢様と結婚するために、五年も付き合っていた石原百合香さんが邪魔になって始末しようと考えたんでしょう」 「な、なんで……?」  そんなことまで。いったいこの子は何者なんだ。 「ずっとあなたを支えてきて、最後にこんな形で裏切られるなんて、百合香さんも気の毒ですねえェ……」 「ぬうぅ、ふざけんのも大概にしろ。そんな女性は知らないと言っているだろう」 「ああァら、学生時代から付き合っていたのに知らないってことはないでしょ」 「な、なんだとォ……」 「でも海野さんも助かりましたね」 「なッ、何が……? 助かったと言うんだ」 「フフゥン、百合香さんは先ほど私とポチが病院へ搬送して治療を受けています」 「ち、治療……? そんなバカな」  そんなはずはない。だって……。彼女は岬から海へ放り込んだはずだ。ただのハッタリだ。オレを()めて揺するつもりか。 「フフゥン、おかしいですか? 治療するのが」 「えェ……? いやそれは」 「百合香さんがと言いたいんですか」 「いや、別に……」  オレは動揺を隠すように、また視線を逸らした。 「奇跡が起きたんですよ」 「ぬうぅ、奇跡……?」 「そうです。まさにが百合香さんを救ったんです」 「ぬうぅ、何がなんだ」    嘘だ。コイツの言っていることは嘘に決まっている。百合香は死んだんだ。間違いない。オレは海に沈んでいく百合香を見たんだ。 「フフ……、信じられないでしょうが貴方が百合香さんを崖から突き落とした直後、海上で巨大な竜巻が発生したんです」 「な、竜巻……?」そういえばニュースでやっていたが。 「ええェ……、その巨大な竜巻に百合香さんは身体もろとも吹き飛ばされたんです」  美少女はジェスチャーつきで説明した。 「そんなバカな……。竜巻にだってェ」 「ええェ、なにしろ巨大な竜巻でしたから。屋根や車さえ吹き飛ばすほどのね。しかも百合香さんが着地した地点が(ホロ)つきのトラックの荷台だったので九死に一生を得ました」 「ううゥ……」 「百合香さんはかなり怪我はしましたが、すぐに私たちが搬送したので、命には別状がありません。良かったですね」 「えェ?」良かった。何がだ。 「竜巻のおかげで貴方はんですよ」  胸に抱えたタブレットに、百合香が病院で治療を受けている姿が映し出された。頭に包帯が巻かれているが、思ったより元気そうだ。 「こ、これは……」  それじゃ、マジで百合香は助かったと言うのか。 「まさに『神の見えざる手』ですね」 「ええェ……、神のねえェ。奇跡か」  なんてことだ。  オレにとってはが起きてしまった。 「さァ、どうします? 逮捕状はまだですが任意で警察署(しょ)の方へ来て貰えますか」  アンジェラは天使のようにニコニコと微笑んだ。 「フフゥン、そうだな。取り敢えずピザでも食べておくか」  こうなったら、オレも観念するしかなさそうだ。  ゆっくりと冷えたピザに手を伸ばした。 「ええェ、そうですね。当分、ピザも食べれないでしょうから」  また彼女はニッコリと微笑んだ。 「フフ……」  冷えたピザは意外に美味しかった。  まさに真夏の夜の悪夢みたいだ。  海野次生(うんのツキお)。  名前の通りオレのようだ。  竜巻に注意か。まさか、こんな形で。  まったく百合香(カノジョ)は厄介でだ。  THE END
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