海野次生,s Episode

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海野次生,s Episode

 人生には、ふた通りの生き方しかない。  ひとつは奇跡など何も起こらないと思って生きること。  そしてもうひとつは、あらゆるモノが奇跡だと思って生きることだ。 《アインシュタイン》  ☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚  思い描いていた完全犯罪。  だがそれは夏の夜の(はかな)い夢のように散っていった。    これがオレにとって最後のチャンスと言えただろう。これ以上の幸運に巡り合う事はない。  だが、どんなに完璧に練った計画もには(かな)いはしない。  まさにあらゆるモノが奇跡と言う通りだ。  用意周到に計画したオレの完全犯罪はによって崩れ去った。  そう忌々(いまいま)しいアンジェラと名乗るデカ天使によって。  ☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚  オレの名前は海野次生(うんのツキお)。名前の通り、これまで幸運(うん)に見放されていた。  何をやっても上手くいかない。  高校を卒業した後、ホストやバーテンダーなど水商売を転々とし、今ではヒモのような生活をしている。毎日、パチンコ三昧だ。知らない他人(ひと)から見ればニート同然だろう。  だが、まだオレの人生も捨てたものではないようだ。  ひょんな事からオレはセレブお嬢様、西園寺(さいおんじ)レイラと付き合う事になった。  あの西園寺(さいおんじ)財閥のお嬢様だ。詳しくは知らないが、総資産は二百億とも三百億とも噂されている。日本で有数のセレブだ。  オレとレイラの出逢いは、昭和の映画のようなドラマチックなだった。  うだるほど暑い夏の夜、彼女が酔っ払いに絡まれている所をオレが身を(てい)して守ったのだ。  相手は凶悪な金髪のヤンキーだった。  むき出しの肩にも禍々(まがまが)しい紅い蜘蛛(クモ)のタトゥが(ほどこ)されていた。見るからにヤバそうな半グレだ。  他の通行人らも見て見ぬ振りをしていた。  下手に関わり合いになれば怪我をするだけだ。最近も電車内でタバコを吸っているのを注意した高校生が逆ギレされ、ボコボコに殴られる事件があったばかりだ。被害者の少年のアザが残った顔でインタビューを受けている姿が痛々しかった。  もちろんボコボコにされている間、周りの乗客たちは誰も助けてくれなかったらしい。  世の中、そんなものだ。  格好をつけて注意しても痛い目をみるだけ損だろう。  最悪、命に関わる事態になりかねない。みんな及び腰だ。  だが、なぜかオレは見かねて美女(レイラ)の助けに入った。  その時は、まだ彼女が西園寺財閥のお嬢様とは知らなかった。  腕には自信はないが、美女が困って助けを求めているのだ。()()づいているワケにはいかない。  もちろんレイラが魅力的な美女だったからだ。良い所を見せたいと思うのが男心だ。  しかし相手のヤンキーは喧嘩慣れしていて何発か殴られた。周りのサラリーマンらも見てみぬ振りだ。けれども、すぐに警察が来て事なきを得た。  多少、怪我をしたがそれでも不幸中の幸いだったみたいだ。  おかげで彼女はオレに好意を持ってくれた。放っといても治るような傷だったが、怪我が完治するまで彼女は病院へ付き添ってくれた。  まさに運命的な出逢いと言えるだろう。  こうして二人の交際が始まった。オレは元ホストなので女性の扱いには()けているつもりだ。純情なレイラを騙すのは容易(たやす)いことだ。  付き合って一年あまりが過ぎ、ようやく先日、婚約をした。  学歴もコネもないオレにとって、まさに千載一遇のチャンスだった。  このまま西園寺財閥の逆玉に乗れば今までの悪運もおつりがくるだろう。散々、バカにしてきた連中を見返す好機だ。  だが唯一、気がかりがあった。  オレには学生時代から隠れて付き合っている彼女、石原百合香がいた。彼女とは腐れ縁だ。  これまでオレは百合香のヒモのような暮らしをしていた。ニートのような生活ができたのも百合香のおかげだ。  当然、百合香はオレと結婚すると思っているのだろう。一方的に別れを切り出したオレを(なじ)った。  今までさんざん尽くして、生ゴミのように捨てられるなんて許せないと。  もちろんオレもただで別れる気はない。  これまでの恩義もある。出来る限り、誠意をみせて慰謝料だって、気の済むまで払うつもりだった。  もっとすんなり別れてくれれば、お互いキズつかずに済んだだろう。  だが百合香は、(ののし)ってきた。  もしレイラと結婚するなら西園寺家へ乗り込んで邪魔してやると(ほの)めかした。  なんとかその場は(なだめ)たが、いつ暴発するかわからない。    まったくだ。  だがオレもこんなチャンスを逃す手はない。  悩んだ挙げ句、オレはお嬢様のレイラを選んだ。  百合香には悪いが、黙っておいて貰おう。  永遠に。  ☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚  深夜の美浦半島に大型台風が上陸して猛威を(ふる)っていた。  俺は密かに百合香の殺害計画を練った。そしてついに今夜、嵐の晩に計画を実行することにした。  アリバイを偽装し上手く百合香をドライブへ誘い出した。  岬の突端から突き落として自殺に見せかけると言う単純な筋書きだ。計画はシンプルな方が良い。複雑にするからつけ込まれるのだ。  首尾よく百合香を誘い出し嵐の中、ドライブへ連れ出した。  天候は一層、悪くなっていく。ラジオでは竜巻注意報が発令したらしい。  ふン。注意しろだって。  そんなモノ知った事か。  こっちは完全犯罪に酔い()れていた。  百合香を睡眠導入剤で眠らせ、岬の突端から突き落とした。これで邪魔者は居なくなった。   「フフゥン、悪いな。百合香。お前が素直に別れていれば良かったんだよ」  百合香の姿が波間に消えた。これで一巻(いっかん)のおわりだ。もうオレの邪魔は出来やしない。  昂奮気味に、オレは自宅へ引き返した。    アリバイ工作は上手くいっただろう。  デリバリーで頼んでおいたピザを玄関へ置いていって貰った。これまで何度も頼んで、リハーサルを重ねておいたので慣れたモノだ。外からリモートで返事をして、確認しておいた。  俺はずっと自宅にいたんだ。デリバリーの配達員が証明してくれるだろう。アリバイはバッチリだ。  これで俺には百合香を殺す事は不可能だ。  おそらく彼女は自殺した事になるはずだ。  これまでの事は感謝している。手にかけたオレの言うことではないが、百合香の冥福を祈っている。  自宅近くまで帰ると、何やら近所が騒がしい。  どうやら竜巻の被害にあったようだ。スゴい惨状だ。近所の家の屋根が吹き飛んでいた。  すぐさま俺は自宅へ戻って確認した。変わった様子はない。ホッとした。  家には被害はないようだ。  テレビはだった。オレはテレビを見ていたと言う手筈(てはず)だ。  テレビでは盛んに気象予報士が台風情報を報じていた。 『……先ほど、美浦市の海岸付近で竜巻が発生したもようです。竜巻による爪痕がそこかしこに残されています……』  緊迫した顔で気象予報士が各地の被害状況を伝えていた。 「フフゥン……」俺は苦笑した。  やはり、この付近一帯で竜巻が起こったらしい。 「なんでも起こってくれよ」  オレには。  まさか、竜巻でピザがデリバリーできなかったワケじゃないだろう。ピザはあった。クツ箱の上には料金の代わりに、ちゃんと領収書も置いてある。何度もリハーサルを繰り返した。いつも通りだ。何の心配もない。  これでだ。百合香の遺体はそのうち見つかり、自殺として処理されるだろう。オレと百合香の関係は秘密だったので疑うヤツはいないはずだ。  これで安心してレイラとの結婚ばなしも進められる。  オレも婿養子として天下の西園寺財閥に加われるのだ。今までバカにしていたヤツらを見返してやる。  ようやくから解放された。気分爽快だ。 「ン……?」  そういえば香ばしい匂いが漂っていた。美味しそうなピザの匂いだ。急に腹が減ってきた。  緊張して朝からヨーグルトとアイスコーヒーしか口にしていない。  さっそくオレは玄関へ戻ってピザに手を伸ばした。  だが間髪入れず、玄関のインターフォンが響いて来訪者を報せた。 「な、なにィ……? 誰だよ」  相変わらず雨は降り続いている。無視しようかと思ったが、またインターフォンが鳴った。 「ハイ、どなたでしょうか」仕方がない。  用心してドアを開けると、見たこともない美少女が微笑みを浮かべ立っていた。  そう、彼女こそオレにとって最悪の天使だった。  アンジェラと言う名の美少女だ。    可愛らしい天使(アンジェラ)と言う名前とは裏腹に、俺にとってはみたいにだった。    ☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚
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