進化の形

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進化の形

 1XXXX年  人類はこの世の春を謳歌していた。  人類として歴史を刻んでから文字通り桁違いと言っても良い時間をこの星の覇者として過ごしてきたのだ。  人類は地球に最も適応した生物となりその自負もあった。  しかし人類には一つだけ克服出来ていない生物がいる。 「あっ、きゃぁ!出たわ!嫌だわ!!!殺虫剤かけて!!!」 「なんだい?いきなり?あっ!!!出やがったなこの害虫!クソッタレ!この!この!この!…………ふぅ、やっと死にやがった、最近のゴキブリは殺虫剤も中々効かないもんなぁ………耐性がついてて………。」 「ホント困るわ………何処から入ってくるのかしら………これだけは本当に何時まで経っても慣れないわ………。」 「今度仕事先でタイムマシンの使用許可申請してみるよ………過去の時点でこいつらを根絶しても影響ない時代がないか。」 「そうして頂戴?私こんなのに怯えながら暮らすのは耐えられないわ。」  男は約束通り仕事先でタイムマシンの使用許可を申請した。  タイムマシンの管理会社の者がにへらと笑う。 「ゴキブリを根絶したいからタイムマシンねぇ………あんなのしょっちゅう出る訳じゃないんだから気にしなくても良いと思うけど………わかったよ、えーと、大体5000年くらい前にはゴキブリは地球での必要不可欠な生物から外れてるねぇ………そのくらい前なら絶滅させても誤差はなさそうだよ。」 「そうか!そりゃあ良かった!じゃあその時代のゴキブリを絶滅させるのに丁度いい権力を持った奴を呼び出してくれ。」 「はいよはいよっと………昔は過去に用がありゃ自分でひとっ飛びだったのに………影響を抑える為に今は過去の人間を呼出してそいつにやらせるしかないなんて、面倒な法律も出来たもんだ。」 「いつの話ししてるんだよ、俺が生まれるより前の時代だぜ?」 「俺はその時代から生きてるんだよ………って、ほら、もうご到着だ。」  ガラス張りのカプセルの中に電流が迸りそこに一人の男が現れる。 「なんだここは!?宇宙船に攫われたと思ったら!!!!」 「こんにちはようこそ!僕らは宇宙人なんかじゃありませんよ!貴方は未来に招待されたのです!実は………お願いが少しありまして。」 「未来人か………ふぅんなるほど、で?お願い?」 「実は私達が色々調べた結果、貴方達の時代ではゴキブリを絶滅させても問題がないらしくて…………それを依頼させていただこうかと………勿論報酬は差し上げます。」 「ならいいだろう、どうすればいいんだ?」 「まずはこちらにどうぞ、ゴキブリを駆逐する為の最強の殺虫剤を持たせます。」 「待て、そんなのがあるならこの時代で絶滅させればいいんじゃないか?」 「それが繰り返す進化でゴキブリは耐性をつけて今のゴキブリにはかなり効果が薄くなってしまったんですよ、でも5000年も前のゴキブリなら耐性がつくより前に確実に絶滅させられるんで安心してください!」 「はー、そんなもんなのか。」 「使い方は……っと、直接使って見せた方が良いな………おーい、ゴキブリのサンプルあるか?」  男はタイムマシンの管理会社の者へ話しかけた。 「お前ここを何処だと思ってんだ?そんなモン持ってるわけねぇだろう、適当に下水にでも入れよ、ウジャウジャ居るだろ。」 「それもそうだな………じゃあ一緒に下水に行きましょう!あ、これ着てください防護服です。」 「まさか未来に来て最初に案内されるのが下水とは………。」  過去から来た男と呼び出した男は下水に防護服のまま入っていく。 「下水と言えど未来ですね、まるで最新の研究施設みたいに明るくて広い。」 「ここで仕事をする人の精神的な待遇改善の結果ですよ。ま、そのせいで過去より大分大型化したゴキブリが沢山徘徊するようになりましたがね。」 「なるほど、こりゃあゴキブリも住心地が良さそうだ。」 「あ、来ましたよ、じゃあ使い方を教えますね。」 「ん?お、おい、待て?あ、アレがゴキブリだって!?」 「ええ、そうですよ?何かおかしいですか?」 「おかしいも何も!アレは……裸の女の子じゃないか!?」 「あー、なるほど、いやいや違うんですよ、アレはゴキブリです、よく見てください、触覚が生えてるでしょ?ゴキブリは下水が広くなってからというものどういう訳か人間そっくりになってったんですよ、でも………見てくださいよあのおぞましい触覚………あー気持ち悪い、もう殺しちゃいますね?」  そう言う男は白いガラスで出来た銃のようなものから光を出してゴキブリに当てる。  ゴキブリは呼吸が苦しくなったように藻掻いて息絶えた。 「そんな、本当にゴキブリ……?」 「だからそう言ってるじゃないですか……こんなデカいのが出て来たら、もうパニックになるのわかって頂けますよね?」 「あ、ああ…………。」  その時、過去から来た男は頭の中で壮大な閃きと、興奮を抑えきれなかった。 「なぁ、ゴキブリ達が大きくなったのはどれくらい前だ?」 「えっと、大体500年くらいですかね?どっかでペット用に作られた『ヒト化酵素』が下水に流れ込んだのが原因じゃないかとか言われてますが詳しい事は俺も専門じゃないんで………。」 「なぁ、報酬はこのゴキブリを連れ帰るって事でもいいか?」 「えっ、物好きですね、別に良いですけど、ちゃんとコレでゴキブリ絶滅させて下さいね?」 「勿論そうするとも!ああ!」  過去から来た男は殺虫剤と共にゴキブリの雄と雌を一匹ずつ貰い受けて帰っていった。  一瞬だけその瞬間に空間が揺れる。 「おっ、帰った途端に次元パラメータが変更されたな。」 「ああ、過去が変わったんだろう、望み通りの今がある筈だ。」 「ありがとう!あー、良かった、これで今日は心置きなくペットのゴキブリと触れ合える!」 「お前は恋人も作らずにゴキブリばっかだな、いくらゴキブリとしても子供は作れないぞ?」 「バッカお前、それが良いんだよ、それにペアで飼うとめちゃくちゃ増えるし、餌やりも少しでいいし、毎日飽きないぞ?」 「俺はアレがまだ触覚生えてた頃を知ってるからゴメンだなぁ。」 「長く生きすぎても損な事もあるんだなぁ。」 「それでいいよ、俺は所詮古い人間さ。」  男が去っていき、一人残されたタイムマシンの管理人は、時計を見やると仕事の整理を始めた。  モニターには今日呼び出した過去の人物のリストが表示され、最後の一行はこう書かれていた。 『エロ漫画家/ゴキブリ研究家:30半ばから急に始めた研究によりヒト化酵素の発明と改良によりゴキブリのペット化に成功した偉人』
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