不死あわせ

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不死あわせ

 彼の事を人は変人と呼ぶ。  しかし彼からすればこの世界の全ての人間が変人なのだ。  限られた命の中で何故人は無駄に時間を過ごすのか彼には不思議でたまらなかった。  もっと有意義な事をすべきだと彼は常々考えていた。  人間同士が全て手を取り合って『死からの開放』それだけを考えていて一斉に仕事をすればそれはあっという間に解決する。  そうしてから無限の時間の中で好きなだけ好きな事をすればいいのにと。  彼はすべき事だけを寝る間も惜しんでやった。  彼は良い大学に受かり研究者になり多額の研究開発費を注ぎ込んで永遠の命を得る薬を開発した。 だが一つ問題があった。  人体実験をする許可だけが降りなかったのだ。  動物では何度も実験して遥かに寿命をする長くする事が実証されていた。  しかし人体での臨床試験の許可だけが降りず、彼は色んな国や機関、政府を説得して許可を貰おうとしたが何処も頑として許可してくれなかった。  そうしている内に時間は過ぎ去り彼はもう老人となって死の淵にあった。  もう駄目かと諦めた彼は傍らの不死薬を飲ませたハツカネズミを撫でると一瓶だけ残っていた不死薬を飲んだ。  すると身体を蝕んでいた病も老いも消え、彼は健康そのものを取り戻した。  彼はすぐに研究室に戻り、自分の身体のデータを取り学会へ発表した。 「これは人間にも効く不老不死の薬だ!」と。  しかし世間は冷ややかで彼は人体実験を許可無く行ったとして指名手配されてしまった。  途方に暮れた彼は人目につかぬように人里をひっそりと離れた。  やるべき事を果たした彼は好きな事がもう今の世では何も出来ない。  だから、どんどん森の奥へ、そしてその奥の洞窟へと進んでいく。  どうせ死ななないから、どんな危険な冒険すら彼にとっては冒険ではなかった。  少しだけ休むつもりが疲れも怪我も無い彼は不眠不休で歩き続ける。  そして彼はその先で見た事もない地下の黄金郷を見つけた。  大発見だ、と喜んだ彼はそこに暮らす人々に話しかける。 「ここは地上より遥かに発展している!一体どうやったんだ!」  と。  地底の人々は笑顔で答えた。 「簡単さ、ここに辿り着くのはアンタみたいに自力で不死になった奴だけだ、だから皆、一時も休まずに全力で働くんだよ、なぁに、死なないんだからいつかは好きな事が出来る時が来るさ!まずはやるべき事からやらないとな!宇宙の為、地球の為、やるべき事はごまんとあるぞ!さぁ、これがお前の仕事だ新入り!頑張れよ!」  男はその量を見て不死になんかなるんじゃなかったと後悔した。
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