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碧斗くんが吐き捨てるように言ったその言葉は、私のないはずの心臓の奥深くに刺さったように思いました。必死で言葉を探します。
「七年間、碧斗くんとともに過ごした記録は残っています。碧斗くんに関する情報はたくさんこの中に詰まっています」
私は自らの胸に手をあてて答えました。それでも碧斗くんは笑ってくれません。
「おまえ、俺のなに?」
「碧斗くんの家族です。私のマスターは碧斗くんです」
「それだけ?」
問われている意味がわからず、私は黙り込みました。碧斗くんは、唇を歪めてチッ、と大きく舌打ちをします。
「もういい」
そのままズカズカと歩いていってしまいました。部屋のドアを開閉する音が一際響きます。私は碧斗くんの世界から締め出されてしまったのです。
間接的でも彼のためになることがあればと、私は近頃身体の調子がよくないおばあさまに寄り添うことにしました。
おばあさまが私を「碧ちゃん」と呼ぶようになったのはいつからでしょう。記録では「リアムちゃん」と呼ばれていました。碧斗くんと私の髪色はよく似ています。だから間違えてしまうのでしょうか。
毎日共に過ごすようになり、私はあることに気づきました。いつもニコニコしているおばあさまが、時々とても不安そうな顔をすること。そして、日に日にお散歩をするのが困難になっていくこと。私はお母様に相談をしました。
数日後、お仕事をお休みしたお父様は、おばあさまを連れて病院へと出かけていきました。夕方遅くになって帰宅したおばあさまは、出迎えた私をみて「怖かったよぅ」と唸るように訴えましたが、私は背中をさすることで精一杯でした。
その週の終わりのことです。
いつものようにおばあさまと過ごしていると、珍しく碧斗くんがやってきました。おばあさまは突然の訪問者に首を傾げます。
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