2. 2025年3月13日

5/5
前へ
/151ページ
次へ
 マディソンの提案の内容を要約すると以下の通りだ。  彼女は元々母と一緒に暮らすことは考えていたが、お互いの仕事の都合と、私が大きくなるまではシドニーで育てた方が良いという考えから、どうしてもできなかった。だが私が成長し、母のスクールカウンセラーの仕事もひと段落ついたため、移住を考えてみないかとのことだった。ロンドンには絵本作りを学ぶことのできる良い学校があるし、その大学の一つではマディソンの親友が働いている。引っ越すことは私のためにも良いのではないか。  一通り話し終えた後でマディソンは言った。 「だけど、私もイザベラもあなたの意志を尊重する。もしもあなたがシドニーで暮らしたければ、無理にとは言わない。ただ、ここで暮らすことはあなたの夢のためにも良いと思うんだけど……」 「ありがとう、前向きに考えてみるわ」  私はほとんど迷わずにその言葉を返した。  9月からイギリスに移住しないかというマディソンの提案について、母は同じように私の意志を尊重すると客間で何度も繰り返した。  心もとなげな表情をしている母に向かって、私は言った。 「実のところ、あまり悩んでないの。元々イギリスって憧れてた土地だったし、今日ここに来てみて、マディソンやスノウにも会ってみて思った。こんな場所ならずっと住んでいたいなって」 「本当? もし私たちのことを思って無理してるなら……」  母はこんな風にいつも私のことを第一に考えている。本当は彼女だって愛する人と一緒に暮らしかったはずだ。仕事の事情もあるが、彼女がこれまでシドニーに留まっていたのは何より娘の私を思ってのことだったのだろう。 「もちろん私はママたちの幸せを誰よりも願ってる。だけどそれが一番の理由じゃない。ここは自然も豊かで凄く素敵な場所だし、絵本作家になるための良い学校もある。だから何も言うことはないかなって」 「だけど、あなたの友達は……」 「もちろん、みんなと離れることを考えると寂しいけど……本当の絆があれば、離れていても繋がっていけるって思ってるから」 「そう……あなたさえよければいいの。あなたがそれで幸せなら」 「ママ……ママは今まで、私のために我慢したことが沢山あったと思う。だけどもう大丈夫。私は大人だし、自分のことは自分で決められる。自分が幸せになる道を選ぶこともできる」 「あなたをシドニーで育てたこと、全く後悔してないわ。シドニーには優しい人が沢山いるし、何よりあなたがこんなに他人思いで素敵な娘に育ってくれた。それを何よりも誇りに思う」  母は私を抱きしめ優しく髪を撫でた。
/151ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加