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0. 2026年8月14日
人差し指が引き金を引く。私の銃口からは真っ赤な液体が、クリスティの銃口からは緑色の液体が噴き出して、昔Mr. ビーンにいじめられていたのと同じ青のリライアント・ロビンの車体を禍々しい原色に染めていく。
スプレーガンでの落書きが終わったあと、クリスティは足元の黒い麻袋を持ち上げ中に左手を突っ込んだ。彼女は生卵を一つ取り出した後、3メートルほど後退して振りかぶった。キンブレルのような豪快なフォームから投じられた白い塊は後部座席の窓ガラスにぶつかって粉々になり、小さないくつもの破片とドロリとした透明と黄色の粘液とが混じり合って、ゆっくりとタイヤの方に向かって流れていく。その後彼女は3回同じことを繰り返した。
腕時計は深夜2時を回っていた。海の家の周りに人影はない。私は庭先にあった10kgは悠に超えそうな角ばった大きな重い石を一つ持ち上げ、運転席の窓ガラスに思い切り打ちつけた。蜘蛛の巣状にヒビが入った窓ガラスはやがて破片をシートや路上に飛び散らせ絶命した。
瞬間セキュリティ・アラームの音が暗闇を切り裂いた。私は反対側の路肩に停められた車に駆け込んだ。先に運転席に戻っていたクリスティの手がイグニッションキーを回し、右足がアクセルを勢いよく踏み込む。
時速80キロの車はハイウェイに乗ると更に加速して、黒い夜の中を走り抜けた。
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